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Whistle Life

食と農の話題を中心に、日々の雑感をつづります。

痕跡の残らない遺伝子組換え技術~新しい植物育種技術~

最近、EUでは新しい植物育種技術(New Plant Breeding Techniquesについての報告書がまとめられました。

 その中で取り上げられているのは、遺伝子を改変した痕跡が全く残らない遺伝子組み換え技術が色々な形で開発されてきていることです。今回はその中のいくつかを紹介したいと思います。

 

 一番単純かつ分かりやすいのは、遺伝子組換え接ぎ木を利用した技術かと思われます。ブドウなどの果樹などでは、台木といって土壌病害虫に強い品種を土台にし、その上に実際に果実を実らせる品種を接ぎ木するのが一般的になっています。その台木の部分が遺伝子組換えで、その上に接ぎ木したものが遺伝子組換えでない場合に、出来た果実は遺伝子組換え作物といえるか?が問題となります。個体全体でみれば、遺伝子組み換えになるわけですが、果実そのもののゲノム情報は、まったく組換えされた形跡がないのです。というか元の品種と全く同じになります。したがって、食卓に出たブドウを怪しいと思って、検査しても、このような技術でつくられたブドウかどうかは判別がつかないのです。

 

 他にも、りんごの苗木にウイルスを使って遺伝子を導入し、開花を早める技術があります。その苗木のある細胞には、その外来遺伝子が導入されますが、そこから出来る果実のゲノム情報はこれまた痕跡が残らないわけですね。しかしこの技術では、通常りんごは品種改良は50年かかるといわれているのが、5年~10年に短縮されるというから驚きです。

 

 また、もっと直接的に遺伝子を改変する方法として人工ヌクレアーゼを利用した方法があります。これはゲノム編集といわれ、これまでの組換技術というのは有用な遺伝子を生物に組み込むということなんですが、この技術では元々の生物のDNAの情報を直接書き換えます。これは自然の突然変異でも起こりうることなので、これも結果の生物だけみたらその技術が使われているかどうか区別できないんですね。

 

 さて、これらの技術は、現行の法律的には規制の対象となるのでしょうか?実は遺伝子組換食品の表示についてさだめたJAS法、遺伝子組換作物の野外生物への影響を検査するカタルヘナ法、ともに組換DNA技術の定義が、酵素等を用いた切断および再結合の操作によって、DNAをつなぎ合わせた組換えDNAを作製し、それを生細胞に移入し、増殖させる技術、とあり、今回挙げた例でいくと規制の対象にならないということになります。

 

 これら技術へどう対応していくか、科学的な議論が待たれるところですが、はじめの二つに紹介した技術は、これまでのように任意の遺伝子を導入するわけではないので、直接の育種目標を達成するわけではありません。直接の品種改良そのものは交配や個体の選抜と従来の技術を使ったりするわけなので、そういう意味では(消費者から)劇的な反響を呼ぶ研究成果が出ることも少ないのではないかなぁ、という印象です。いずれにしても整理は必要になるでしょうが。

ただし、最後に紹介した人工ヌクレアーゼはより慎重に進めるべき技術かと思われます。より自由に意図的にゲノムを編集できるようになればもっと多くの議論を呼ぶことになるでしょう。