この映画は、主役である女優千代子の人生を、製作プロダクションの社長とカメラマンが聞き役となって回想する映画です。ある日偶然出会った男(鍵の君)に恋をした千代子が一途にその男の姿を追い続ける、というある意味で定番でシンプルなストーリーではあるのだけれども、その過程のアニメ的表現が素晴らしく、本当に想像力の爆発!といった感じでぐいぐい映像に引き込まれる、そんな作品でした。
はじめ、千代子の実人生と千代子が出演した映画のシーンが入り混じり、聞き役の二人までが回想シーンに登場するものだから、はじめは大混乱しましたが、考えてみれば虚実入り混じるのは今監督の作風でもあります。また、単純に過去を回想するのではなく、あくまで現在の視点から過去を想像するという視点で回想されるので、おそらく過去が美化されている部分であったり、製作会社社長が回想シーンに介入し「こう助けてあげたかった」みたいなのが反映されてより味わい深いものになっていると思います。
そしてミステリー要素や伏線がきいたりしているので、おそらく観るたびに色々な発見があるであろう映画という意味で何度も見返したい映画になりそうです。
そしてなんといっても最後のオチです。以下はネタバレになりますが
問題のラストシーン。「だって私は、恋している私が好きなんだもん!」にやられました。最初はなんじゃそりゃー!って感じで、切ないラブストーリーだと捉えて映画を観ていた自分にとっては軽い憤りすら覚えるラストだったのですが、よくよく考えればこの一言を噛みしめて映画全体を振り返ると、虚実入り混じり混乱を招くその演出が良くできていると思ったのです。
っていうのは、回想の映画シーンがとてもイキイキしていたんです、全然鍵の君には会えないのに本当に回想シーンの千代子は、別の人との結婚シーン以外は楽しそうなのです。過去回想シーンから連続的にいま現実のシーンに切り替わる場面があります。そこでは、過去の回想シーンが現実の千代子の視点からになっていることを意味し、そこに千代子が過去の恋に恋する自分に酔っている様子が伺えるのです。
そして、あのキーアイテムである鍵です。劇中で鍵は大切なものを開く鍵とされています。ここでいう大切なものとは大女優千代子が恋に恋する人生そのものであり、鍵はその人生を振り返る想像力を解放させるものなのです。実際に過去の回想シーンで鍵がキーンとなると、新しい場面へと移行します。現在の千代子が恋に恋する人生への想像力を爆発させる瞬間なのです。
こんな風にこの映画は解釈次第で、様々な場面を様々に捉えることができる傑作だといえるでしょう。