さて、前回からシリーズでボルバキアについて紹介してきました。
前回まではボルバキアの恐ろしい性を支配する能力について紹介しましたが、それ以外にもボルバキアは共生微生物として語られるネタをたくさん持っています。
○種間での感染のひろがり
私達が一般にイメージする共生とは、たとえばイソギンチャクとカクレクマノミや以前にも紹介したマツとマツタケの関係を思い浮かべる方がほとんどでしょう。このように共生とは、共生に関係する生物種が一対一に対応していることが多いのですが、ボルバキアの場合、昆虫100万種以上に感染例が報告されているとおり、地域・生物種を問わず広範囲に存在しています。
つまり、ボルバキアというのは種の壁を超えて感染を広げていくことができるというわけです。このことは実験的には証明されていて、ある生物種に感染していたボルバキアを全然別のさまざまな節足動物の卵に導入したところ、感染が成立したのです(当然すべてではないですが)。しかしながら自然界で種間で感染が広がるメカニズムは未だ良く分かっていません。
○ホストの進化を加速させるボルバキア
前回のエントリでボルバキアの性を支配する能力のうち、単為生殖(性別に関係なく子孫を残すことができる)への誘導というものがありました。昆虫の中にはボルバキアがいなくても、単為生殖を行う昆虫の存在が知られています。実はこの昆虫にこのように進化させたのがボルバキアだという考えがあります。
この考えを支持する事実として、ボルバキアの宿主である昆虫のゲノムにボルバキアの遺伝子が挿入されているという報告があります。これは原核生物から多細胞生物へと遺伝子が水平伝播するはじめてのケースとして日本人研究者が発見しています。
余談ですが、遺伝子組換え作物などその生物が本来もっていない外来遺伝子を導入することを”不自然”として批判する方もいますが、今回の発見例は外来遺伝子の導入が“自然”条件下でもあり得るということになります。
また、このことは進化が、親から子へと受け継がれる縦方向への進化だけでなく、生物間での横のつながりも進化を駆動させる要因となるというのが面白いですね。