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Whistle Life

食と農の話題を中心に、日々の雑感をつづります。

ボルバキアの人間社会への応用

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前回までのエントリのなかでいろいろなボルバキアの面白い特徴を紹介してきましたが,最後はこのボルバキアの特性を利用して人間社会に役立てようという研究を紹介します。

 

 ○ フィラリア症対策

 フィラリア症とはフィラリアと呼ばれる寄生虫によって引き起こされる疾患のことです。フィラリアは蚊によって媒介されます。フィラリアと聞くと犬を思い浮かべる方が多いかもしれませんが,それは犬糸状虫と呼ばれるフィラリアの一種であり,他には人間に感染し病気を引き起こすものもいます。

 実はこのフィラリアによっておこる炎症はフィラリアだけによるのでなく,フィラリアに住んでいるボルバキアも炎症の原因となるタンパク質を生産しているようです。寄生しているフィラリアにさらに寄生しているボルバキアが病原性の原因というのは面白いですね。性を支配するだけでなく,その病原性にも関与しているボルバキア恐るべしです。

 したがってボルバキアを除去するテトラサイクリンなどの抗生物質を投与すると炎症が少しおさまるというのです。

 

○ デング熱対策

 上記のフィラリアの事例ではボルバキアを除去しましたが,逆にボルバキアの性質を利用するために積極的にボルバキアを導入するという方法もあります。デング熱はネッタイシマカという虫が媒介するのですが,ある系統のボルバキアが導入されることで,その虫の寿命が短縮されるということが分かりました。これを利用してボルバキアを導入して,カの集団を縮小させようとするのですが,当然一匹一匹に導入することは非現実的です。

 そこで面白いのは性を支配するボルバキアの性質を利用します。まず,ボルバキアは卵をつうじて親から子へ感染が拡大します。一方,細胞質不和合性という性質において,感染したオスは感染したメスとしか子孫を残すことができません。つまり,感染させたオスは自然界にときはなつとどうなるでしょう?感染したメスとしか子孫を残せないので,段々ボルバキアに感染した個体が増えていきます。感染したメス自体は寿命が短くなっているので,集団内の個体数がどんどん少なくなっていくのです。

 性を支配する性質を用いた見事な方法であり,デング熱だけでなくマラリアやあるいは農業害虫の駆除などにおいてもその活用が検討されています。実は不妊虫放飼と呼ばれる害虫駆除方法が知られていますが,ふつうは遺伝子組み換えで不妊虫を作出する例が多いようですが,ボルバキアを利用するというのはその発展形ですね。

 

 これまでみてきたようにボルバキアの人間社会への応用研究の今後の展開にも注目できそうです。

○ 共有

 

 ボルバキアをみているとある生物一個体が一個体のみで成立しているとは言い難くさまざまな生物種の連関の中で生きているといえます。そのように記述すると,“共生”という言葉が思い浮かばれますが,前回の遺伝子がボルバキアから昆虫に移行していた事実を考えると,共生というよりは遺伝子資源等の“共有”と考えた方がしっくりいきます。われわれ生物はお互いにいろいろな機能を共有して生きていて,時にそれは生物種同士の境すらあいまいにするそのようなイメージを持ちました。