TPP等の議論で日本農業の競争力強化のモデルとしてオランダ農業が挙げられます。今回は、オランダ農業が本当に日本農業の目指すべき姿なのか、という話をしたいと思います。
結論として、私自身は日本にはオランダ農業はそぐわず、日本の気候や食文化に基づく多様な農業を展開すべきだと考えています。
オランダ農業が、なぜ日本の目指すべき目標として語られるのか。それはオランダという国が日本よりも小さい国土(九州くらい)にもかかわらず、世界第2位の農業生産輸出額を誇っているからです。
オランダでは、トマトや花などのガラス温室での栽培や農作業の機械化、IT化による高度に集約された施設栽培を行っています。栽培品目の選択と集中により研究資金をそこに集中させ、徹底的な効率化を進めているのです。これは日本との施設栽培の品目ごとの面積を比較すると明らかです。オランダでは上位3品目が占める割合が70%を超えているのに対し、日本では約30%程度です。
なるほど確かにそれだけ聞けば、米や小麦など面積つくってなんぼの土地利用型作物では競争出来ない日本にとって、オランダの戦略は正しくも思えますし、実際学ぶべきところは多いです。
しかしながら、オランダ農業の特性をもう少し深堀りすると違った見方も出てきます。そこにはオランダが施設園芸に特化せざるを得なかった事情も見えてきます。
というのもオランダというのは今でこそ農業大国ですが、もともと農業生産に関しては決して有利な土地条件ではなかったのです。まずひとつにオランダは土地としては平坦ではありますが、多くは湿地帯です。水はけの悪い土地というのは本来野菜の好む条件ではありません。そのため、オランダといえば風車のイメージがあるように干拓地として農地を開いていった経過があるのです。そして温度と日照も少なく、気候的にも良い条件ではなかったのです。
そのため、土耕に頼らず、温度も制御できる施設園芸を中心に展開していったのです。
ある意味で不利な条件から転じて、得意分野にもっていくその努力はすごいといえます。
一方で日本を振り返ってみるとどうでしょう。日本には四季がありそれぞれのシーズンに応じて様々な野菜が栽培されます。また日本は南北に長く、また平坦ではなく急峻な土地が多いことから、地域ごとに多様な風土が存在し、それにより地域ごとの食文化が醸成されてきました。また、外国からの料理を積極的に取り入れ新たな食文化を形成するというような事例もあります。
つまり、日本はオランダと違って野菜生産に恵まれた土地条件であり、かつ文化的にも多様な食のニーズがあることから、必ずしもオランダのような「選択と集中」による効率性とは馴染まないように思うのです。
理想論かもしれないですが、なんとなく地域特有の資産という観点が日本にとっての付加価値なように思えるのです。もちろん個々の経営体が効率性を追求するのは何の問題もありません。ただ、国策として特定の品目や施設園芸を推進するというのは少し違うのではないかと考えます。