前向きでロードムービーのような社会派ドキュメンタリー
気候変動、人口爆発、グローバリゼーション。
私たちの地球環境を取り巻く状況はよいとは言えない。
21人の科学者グループが、2012年に科学誌「ネイチャー」に将来に対して悲観的な予測を立てました。このままのライフスタイルを続ければ、人類は滅亡するというものです。
この記事をきっかけに、女優のメラニー・ロランと活動家のシリルディオンの共同監督により、映画化され、フランスで大ヒットを遂げたドキュメンタリー映画が、「パーマネントライフを探して」です。
農業、エネルギー、経済、民主主義、教育の五つのテーマで、持続可能な社会に向けて取り組んでいる人・場所を訪れ、話を聞いていきます。
映画は、監督たちのトークナレーションによって進められます。シーンとシーンの間に、軽快な音楽と次の行き先に向かう道中のシーンが挟まれるので、社会派のドキュメンタリーでありながら、感覚としてはロードムービーに近い見心地で、最後には晴れやかな気持ちになれました。
この手のドキュメンタリーにありがちな、いたずらに現状の危機だけを煽るのでなく、明るい未来に向けて実践的に活動している人たちを紹介しているので、希望に満ちていて、前向きです。
農業がテーマの第1章
ここでは映画にみる食と農ということで、特に第1章で取り上げられた農業について語りたいと思います。
まずはアメリカ、デトロイト。
デトロイトは、かつては自動車産業の一大拠点として、ピーク時の人口200万人を誇る大都市でしたが、自動車産業の凋落により、みるみる人口流出が進み、今や人口70万人となっている都市です。さすが、アメリカ衰退もスケールが違います。
日本でも夕張のような事例もあるから他人事ではありません。
荒廃したデトロイトの風景は、映画でも度々取り上げられています。
ドント・ブリーズの舞台もデトロイトでしたね。街全体を覆うおどろおどろしい雰囲気が印象に残っています。
そんなデトロイトの地で都市農業の取り組みが盛んに行われているとのことです。
荒廃が進み、スーパーマーケットも撤退したデトロイトでは、新鮮な野菜が手に入りづらくなった、と。
そこで、都市農地や未開拓の土地を活用して、自ら野菜栽培し、自給自足の生活を目指すアーバンファームの活動が盛んになったのです。
どれだけ、荒廃し、貧しくなったとしても、食またそれを支える農というのは、人間の根源的活動な気がします。
続いてはイギリスの、インクレディブル・エディブルの事例です。
これも市民が、生活の中に農業を取り入れる都市農業の形と言えます。
街中の公共の地に野菜をどんどん植えて、共有する。それが警察であっても。そんな取り組みです。
「食べるなら参加」をモットーに、街中の誰もが菜園に親しむ。これも都市と農業の良好な関係づくりという事例と言えます。
効率性重視の有機栽培の取組
最後はフランスのル・ベック・エルアンでのパーマカルチャーの取り組みです。
これは近代の工業型農業へのアンチテーゼとして紹介されています。
面白いのは、はじめに小さい農業が大規模な工業型農業よりも生産効率が高い、と言い方がされていることです。
それは如何にか。と思っていると、なるほど、パーマカルチャーとは自然に近い形での農業でありながら、徹底的に土地効率も追求していること。
その事例として紹介されているのが、屋根で葡萄を育て、その下にトマト、一番下は、日陰でも育つバジルを育てる。平面でなく、立体的にも効率性を重視しているのです。
一見、効率性とは無縁にも思える有機栽培。このような土地効率や農薬・化学肥料不使用によるコスト削減など、有機栽培を単に思想的なものとして捉えず、経営形態として成り立つモデルとして紹介されていることに一番関心しました。
ただ、違和感を感じた部分もあります。
印象的だったのは、穀物の批判もされていたことでした。その取り組みでは、野菜だけでなく、「森の庭」として様々な果実が実る庭を作っていました。動物は本来、穀物の力なしでも自然の恵みだけで生きてきた。と言うのです。
ここについては、言っていることは分からなくもないけど、もともと動物は飢餓状態で常に食べ物を探すことを優先した生活をしています。穀物を農業で導入することで、カロリー効率を向上させることができた結果、様々な知恵や技術、思想を身につけることが出来たと思うので、その穀物批判は当てはまらないかな、と感じました。
生活、社会の基本としての農業
農業をテーマに紹介されたのは以上ですが、そのほかの取り組みでも農業が度々取り上げられます。
例えば、エネルギーに着目した第2章では、温室の屋根を利用した太陽光発電で温室での野菜栽培を行いながら、屋根でエネルギーを生む。
このように持続可能な社会を考える時に、食そして農というのは、生活ひいては社会全体の基本となる感じさせられました。
農業の役割というのは、単なる食糧生産でもない、産業でもない、もう少し幅広い役割があるのではないか、と改めて考えるきっかけとなった良い映画でした。