三児の父はスキマ時間でカルチャーライフ

仕事も趣味も育児も妥協しない。週末菜園家が、三児の子どもたちを育てながら、家事と仕事のスキマ時間を創って、映画や農業で心豊かな生活を送るブログ

《映画にみる食と農》二郎の存在感が凄い 二郎は鮨の夢を見る。

ミシュランガイドで三ツ星を最高齢で獲得した銀座の名店すきやばし二郎の小野二郎とその家族、師弟に密着したドキュメンタリー。

 

私は地方在住ですが、オバマ元大統領が来日した際に訪れたことがニュースにもなっていたので、名前くらいは知っておりました。

日本の鮨屋さんでありながら、米国人監督によるドキュメンタリーということで気になったこともあり、鑑賞しました。

 

人間味が滲み出るインタビュー

 

鑑賞前は、NHKのプロフェッショナルとか情熱大陸とか、その道のプロの努力や苦悩、才能を掘り下げる映画なのかと思っていました。

確かにそのような要素はあります。

特に前半、料理評論家の話が中心になりますが、二郎がいかにすごいかということが語られます。評論家の意見はやや大げさな表現ではありますが、導入としては分かりやすかったです。

何せ言っていることと、すきやばし二郎の映像の持つ力が全く見劣ってないところに現れていると思います。

中盤以降は、いずれ店を引き継ぐ長男禎一であったり、師弟であったり、

取引のある築地市場の方々であったりと、二郎を取り巻く人々の取材が中心になっていきます。

そこでも、二郎がいかに凄いか!?というよりはどこか人間味が滲み出るような取材内容になっていました。

特に長男の禎一さんは、実質お店を運営する中心人物です。築地への買い出しから師弟への指導までこなします。それでもやっぱりお客さんは、二郎がそこで立って握ることを期待して来店する。さらには、二郎も85歳。もういつ相続が発生してもおかしくない状況の中で、看板を引き継いでいけるのか。

そのプレッシャーたるや。

そういった周囲の期待と不安は禎一さん自身十分に認識していて、将来への不安とそこはかとない切なさを感じます。

 

アーティスティックな映像

また、本作はドキュメンタリーである以上に、非常にアーティスティックな作品であると感じました。鮨のシーンは美しいの一言に尽きます。

バックにクラシック音楽が流れながら、主人公の二郎が淡々と鮨を握る。そこでお皿に一貫だけ盛られた鮨は、お店の雰囲気含め別世界に連れて行かれた雰囲気すら感じます。

食べたい→食べるのが勿体無い→食べることなんか恐れ多い、っていう不思議な気分になるのです。

 

そして何より、二郎の佇まい。ただそこに立っているだけで存在感を感じさせるオーラをお持ちです。やはり、その道を究めているからでしょうか。

最初の料理評論家のインタビューでは、二郎さんが前にたって握ると、呑んでワイワイみたいな人には居心地が悪い。と語られます。

純粋に鮨を楽しみに来る人にとっては至高である、と。

 

正直インタビューの受け答えは聞き取りにくいところがあります。がそこで映っているだけで「画」になっています。パッケージも、二郎の写真アップになっているのも納得です。

 個人的には築地のセリシーンも非常に魅力的に見えました。

 

将来への不安と受け継ぐものたちの決意

 

映画に見る食と農ということで、農の部分についても少し。

映画では水産物の資源問題も提起されています。

昔には当たり前にあった、赤貝が入手しづらくなっている。

そこには、過度に安価での消費を求める我々生活者の存在も示唆されます。

 

こういったことも含めて、この映画にはそこかしこに「終焉」のようなものを感じます。一方で背負っていかなければならない者たちの決意も見えます。

決意は、店の前でただただ佇む従業員たちのシーンに現れています。

 

ドキュメンタリーってともすれば、退屈すぎてやばいこともありますが、本作は語りすぎてしまうくらいに魅力に満ちた一作だと感じました。