外から見れば耐え難い苦境であっても、本人からしてみれば、いまの人生を意外と楽しんでいる。
わりと深夜食堂で繰り返し描かれているテーマにも思えます。深夜に来るお客さんが、各エピソードの主役になるわけですから、やはりそれなりの事情を抱えているわけです。
今回で言えば、常連の忠さんの幼馴染のカエさん。若い頃は履物屋の美人娘として、忠さんの心を奪う存在でありましたが、現在はラブホのベッドメイキングの仕事をしながら、一人暮らす存在です。
客観的にみれば、あまり恵まれた状況にないと言えますが、めしやで一人鍋を音を立てながら美味しそうに食べる姿からは、人生を悲観しているようには見えません。
そんなおカエさん。
弟の死をきっかけに、弟の息子、つまり甥にあたる哲平の面倒をみることに。
40代の無職の甥、血が繋がっているとはいえ、いわばヒモ状態になります。
ある日、彼に飲み代を請求する哲平、そしてそこでお金を渡してしまうおカエさんの姿に、忠さんは、ついかっとなって一言言ってしまいます。
忠さんの一言は、どうしようもない哲平やそれに対して甘々なおカエさんに対して、至極「もっともな」ものでしたが、おカエさんは逆ギレします。ほっといてくれ、と。
なぜ他人にそんなことを言われないといけないのか、私は私で今が楽しいのだと。
そう言われて、すっかり気を落とす忠さんです。忠さんは、自分が言ったことが正しかったのか悩みますが、マスターは、幼馴染なんだからそれくらい言っても良いと優しく諭します。
どんないさかいも、どんな苦境も優しく抱きしめるように対応するマスター。
いつも説教くさくなくて、見ていて安心します。
結局、哲平はあちこちで小さい犯罪を繰り返していたようで実刑になります。
その後哲平に一人息子が居たことが発覚。この面倒もおカエさんがみることに。
これもまた、外からみれば苦境に思える状況ですが、この歳になって子供を育てる楽しみを味わえるとは、とおカエさん。
「正しさ」と幸せって違うものだと改めて感じさせるエピソードでした。
あと、昔憧れだった女性の今、神社での傘の表現とか、忠さん側の視点も心に染み入りました。良かったです。