三児の父はスキマ時間でカルチャーライフ

仕事も趣味も育児も妥協しない。週末菜園家が、三児の子どもたちを育てながら、家事と仕事のスキマ時間を創って、映画や農業で心豊かな生活を送るブログ

《ムービーウォッチメン予習》羊の木は、ヒリヒリとした人間関係に息を呑む見応え十分な傑作でした。

ムービーウォッチメン予習記事です。

今回は、錦戸亮主演のヒューマンサスペンス「羊の木」。

監督は「桐島、部活やめるってよ」で一躍有名になった吉田大八監督です。

吉田大八監督作は桐島以降すべて鑑賞しています。どれも大変好きですが、前作の「美しい星」は寓話的すぎてちょっと乗れなかったですかね。

今回も題材的に寓話的で難解な内容だろうなぁと少し予想してました。

ただその分、今回は、確かに難解な部分がありますが、ヒリヒリとした人間関係が存分に楽しめる吉田監督らしい、見応えのある映画になっていました。

前半淡々と、それでいてどこか不安や緊張が漂う会話シーン、後半から不安な思いが具現化するかのように息を呑む場面が増えてきて、そこからの最後ジェットコースターのような展開にシビれました。

 

舞台は、魚深市という架空の市役所。

新たな過疎化対策として、受刑者の住まいと雇用を地方の自治体に受け入れるというプロジェクト。

市役所職員の月末は上司からその極秘プロジェクトとして新たに6名の「新住民」の受け入れを担当するのですが、受刑者の罪状はなんと全員殺人だったことが発覚。

少し接点を持ち始める新住民と主人公とその周囲。月末は、殺人という過去を持つ人たちを前に、心を揺さぶられていくことになります。

 

 

 

役者陣の演技が素晴らしかったですね。

特に、人間臭い、役者っぽさが的確に現れていた主演の錦戸亮

  

錦戸亮は良い意味でアイドル感が全く消えててていて良かったです。市役所職員という役どころで市民代表っていう感じがこの映画にとてもマッチしていると思いました。

それにしても役者がまとっているオーラまでも失くしてしまう監督の演出力には脱帽です。

 

そして、どこか人間離れした存在感のある松田龍平も最高でしたね!

錦戸亮演じる月末が、やってきた受刑者との雑談で使う「いいところですよ。人もいいし、魚も上手い」という定型句。

みな一様に無反応でしたが、松田龍平演じる宮越くんの時だけは、宮越くんからその定型句が出て来るあたり、この時点で宮越が他の受刑者とは違うということを示唆していたのかもしれません。

なんか宮越くんの殺人は、正当防衛の雰囲気もあり、彼だけは、善良な人なのかとも思いきや、やっぱりちょっと言動は可笑しいし、やっぱりヤバイ人だったっていう。

松田龍平のいつもあの何を考えているか分からない人間味のなさが、今回も炸裂でした。

 

役者の演技だけではありません。

本作は構成がとても巧みなだと思いました。

前半淡々とした会話劇に見えて、とてもその中身はとても緊張感のある内容になっています。

あの、北村一輝の登場シーン。タバコ買ってきてくれる?の嫌な緊張感は忘れられません。

 

また、中盤お祭りの全員集合するシーンなど、結構要所用所に緊張する画面が挟みこまれており、飽きさせない作りになっています。

 

また後半以降の、月末と宮越の二人きりのシーン。あれも前段で宮越くんの恐ろしい行為を描いているからこそ、極限の緊張感を生み出していると思います。

一言間違ったら殺される。そんな雰囲気です。

近年見た中でもこれほどスリリングな場面は無いと思います。

 

 その他細かいところでありますが、

福元のビールを飲みたいけど抑える。

岬から二人で飛び込むエピソード

8号線沿いに新しくできたラーメン屋さん。

その全てが後の展開に効いており、無駄なシーンがほとんどないといえます。

 

テーマ的な部分では難解さも感じさせられました。

のろろ様が意味するものとは?

「羊の木」の意味は?

もう一度この辺りは振り返って理解を深めるか解説を聞きたいところです。

 

新住民は6人いますが、その扱われ方には濃淡があります。

当初は、平等に登場していただけに、少し肩透かしの部分もありますが、それは漫画原作ゆえの取捨選択でしょうか?

しかしながら、福元のエピソードや、田中泯演じるヤクザのエピソード。短いながらも印象に残るとても感動的な余韻を残してくれました。

6名登場させることで、元殺人犯というカテゴリを一般化させない

というか、肩書きは共通でもそこでの人格が多様であることを認識させられただけで考えさせられるものがありました。

 

一般受けはしないのかもしれませんが、より深く理解したいと思わせる傑作だったと思います。