今週のムービーウォッチメンの課題映画は吉田恵輔監督の「犬猿」
後述しますが、これはもう4人による主演映画と言っても良いかもしれません。
タイトル通り犬猿の仲である兄弟、同じく仲が悪い姉妹。
真面目な弟と粗野で乱暴な兄。仕事人間の姉と美貌が取り柄の妹、対照的な二つの兄弟姉妹が関わりあううちに壮絶なドラマへと繋がっていきます。
一見、コメディのような設定ですが、ふと恐ろしさを感じてしまうまさに兄弟姉妹間の関係性のように複雑な一本です。(スリービルボードのように用意にジャンル分けできない映画は最近増えているような気がします。)
評価的には、4人の演技のアンサンブルは心地よかったのですが、お話運びはもう一捻り欲しかったというところはあります。
まず、演技面では安定の新井浩文さん。やはりこういう乱暴な役が似合いますよね。キャバクラで乳を触りながら話すシーンは最高でした。
それだけに、後半は完全に狂気が抜けきっていてなんか違和感がありました。
そして何と言っても、今回は江川啓子さんでしょう。喜怒哀楽が豊かでそれでいてコメディ然としてなくって、的確な演技をバッチリこなしているように感じました。
正直この方の演技で映画全体を動かしていっているようにも見えました。
最高なのはやはり、あのダンスシーンでしょう。
それまで真面目一徹のキャラで通していたので、なおさらギャップに爆笑しました。
一方で、こうした役者陣の演技もあるのか、極端に関係性が図式化されてしまっているように感じたのが残念でした。
度々、二つの兄弟姉妹が対比されるような描き方がされるのですが、それぞれの関係性が似ているという以外に意味を見出すことができませんでした。
したがって、最後の江川啓子さん演じる姉の行動は、対比させるためだけ、つまり映画の演出上の要請によってそうさせたように感じて非常に残念でした。
それによって一番感動的な場面で白々しく感じてしまったのは私だけでしょうか?
個人的には二つの兄弟姉妹はもう少しクロスオーバーしても良いのかと思いました。
もちろん弟と妹はお付き合いするのですが、それは姉妹の関係性に影響を与えているだけで、弟と妹や姉との関係性が変わるわけではありません。
そこでの絡みをもう少し持たせることで、最後病院で4人集まるシーンがもっと活きるのでないかと感じました。
それでも映画としての出来不出来を超えて兄貴を持つものとして、共感できる部分も多く、なかなか見につまされました。
家族なんだけど、親子とも違う。尊敬しつつも敵視してしまう。好きではないんだけど嫌いにもなれない。不思議と兄弟の間には相反する二つの感情があります。
そしてその関係性は成長とともに変化していく。
そのことは最近の自分の中でも良く考えることなんです。ですから、新井浩文が終盤「お前は昔は俺のこと好きだったよなぁ」っていう発言で思わず、自分の境遇と重ねて涙が出てしまいました。
そういった兄弟感の複雑な感情をテーマにしたというだけで結構意義のあることなんではないかって思います。