1月から毎週、宇多丸さんのムービーウォッチメンの予習記事をブログにアップしています。
今週は仕事が忙しかったので、初めてパスしようかと真剣に悩んでいましたが、結局公開日深夜の回に滑り込み鑑賞しました。イーストウッド監督作品とあって、上映回数が多かったのが幸いでした。
結論から言うと、無理してでも観て良かったです。鑑賞後、説明不能の感動体験がそこに待っている不思議な映画でした。
以下ネタバレでお届けします。
クリントイーストウッド監督最新作「15時17分、パリ行き」。
本作は、アムステルダム発パリ行きの高速鉄道内で起きたテロ未遂事件(タリス未遂事件)を描いた実話作品です。イスラムの男が銃を発砲し、あわや大惨事の事態に、偶然その場に乗り合わせたアメリカの若者3人が勇敢にも立ち向かい、一人の死者を出すこともなく解決に導く、いわばヒーローの物語です。
何と言っても特徴は、英雄となった仲間3人を本人が演じていることです。もっと言えば、3人のみならず、犯人以外の現場に居合わせた全員、主人公たちの家族までそのまま本人役で登場しているというから驚きです。
本人が本人を演じる独特の映像体験
このことが非常に独特な映画体験をもたらします。
ここまでくると、もはやドキュメンタリーなのではないかとも思えますが、映像は思いっきり映画のように様々なカットやアングルで撮られています。本人主演にもかかわらずドキュメンタリー感はゼロです。
一方で、演技については、素人が演じているにも関わらず、意外と「観ていられます」。それは主人公のみならず、脇を固める登場人物たちも本人、つまり主人公にとっては友人や家族、知人であること。加えて、物語自体も自分自身が経験したことそのものなのだと考えると、もはやこれは演技ではなく、自己の追体験とも言えるのです。
それが、不思議な自然体を生み出しているからすごいです。
実人生を反映させたかのような構成
本作は、話の構成も独特です、銃乱射事件の実話映画と聞けば、テロの危機をどのようにして救うかに主軸が置かれそうなものです。
しかし、実際にテロと対峙する場面は映画の中では本当に一瞬の出来事です。
映画の大半は、幼少期から中学時代、大人になって軍隊に入隊するまでの彼らの人生が割と淡々と流されます。そして異様に長く、本当にたわいもない旅行のシーン。それらは観ている最中は退屈ですらありました。
しかしながら、終わってみればこのような構成は、実人生そのものを反映しているのだとも感じました。今回の事件は彼らにとって人生を変えるほどのとてつもなく大きな出来事ですが、長い人生のスパンの中では、列車の中の出来事はほんの一瞬の出来事です。
それを映画の中でも体感させていて、このような事件も日常の延長にあるものだというメッセージにも感じました。
スペンサーを中心に語られる人生の内容は、ひとつひとつは本当に取るに足らない出来事です。スペンサーは悪いやつではないのだけど仲間とのちょっとした付き合いで校長室に呼び出される羽目に。また、軍人を志し、努力も人一倍するけど、今ひとつ実らず、失敗や挫折もある。要はこれって普通の人たちの物語なわけです。
その普通の人たちの物語が90分という映画の尺の中で、時系列に並べられると彼らがあそこで危機を救ったのは、偶然でなく、必然であると感じさせられます。
そしてラスト体験したことのない感動体験へ
うだつの上がらない青年が、ヒーローになるというこた、それは我々にとって大きな勇気となります。
そして本人が本人役、実人生をそのまま凝縮して映したような独特な映像体験は、ヒーローが誕生した瞬間を目撃した後、未曾有の感動体験へと移ります。
ラストシーンは、フランスで褒賞を受けるシーンで終わるのですが、そのシーンは全て現実の実録映像なのです。それもほぼまるまるです。
本人がそのまま出ているので、ここで映画の世界と私たち観客の世界とが直接結びつき、この話が実話であったことを再認識させられ、本当に深い感動と勇気を与えられました。
こう書いてしまうと自分の体験したことが陳腐化してしまいそうな気もします。
映画というよりは一人の人生をそのまま見せられたような感動がこの映画にはあるのです。
- 作者: アンソニーサドラー,アレクスカラトス,スペンサーストーン,ジェフリー E スターン,田口俊樹,不二淑子
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