毎週TBSラジオ ウィークエンドシャッフルのムービーウォッチメンのコーナーで宇多丸さんの時評を聴く前に、予習で映画を鑑賞。その感想レポートをお届けしています。
今回は、3月4日に開催されたアカデミー賞で作品賞、美術賞、監督賞、作曲賞を受賞したギレルモ•デル•トロ監督の「シェイプオブウォーター」です。
米ソ冷戦時代のアメリカで、極秘裏に研究が進められていた半魚人の「彼」と、研究所の掃除婦との恋を描いたおとぎ話のようなファンタジー作品です。
浮遊感のあるテーマソングと、ナレーションの入れ方、凝った映像演出からして、ディズニー映画のような趣きがありますが、序盤いきなりの主人公イライザの自慰シーンもあり、ラブとロマンスのファンタジーでありながら、ただごとなさも併せ持つ始まりでした。
実は、私自身はギレルモ デル トロ監督作品は初鑑賞。しかし、本作を観るだけでとても作家性の強い監督さんだと感じました。
実際、それは、パンズラビリンスにみるダークファンタジーな雰囲気にも観て取れます。(観てないですが)
半魚人の彼とイライザの恋仲になるプロセスに違和感
今回アカデミー賞作品賞受賞作品ということで、かなり期待していったのですが、個人的にはあまり乗れませんでした。
作品世界と好みが合わなかったといえば、それまでになってしまうのですが、ヒロインを口の効けない掃除婦に設定したという新規性はあるものの、ストーリーがあらすじから想像される以上の展開に乏しいと感じてしまいました。
おとぎ話なのだから仕方がないと言いつつも、醜い半魚人と恋仲になってしまうというのもすぐには飲み込めませんでした。
通常の美しい人魚姫に恋することへのアンチというのも理解できますし、言葉を話せない、孤独なもの同士、共感しあうということは、テーマ的にも理解できるのですが、恋仲になるのに納得感のある描写は無かったように思います。
総じて、2人の関係の描き方が浅いように感じてしまいました。
「彼」が殺されそうになった時も、「ここで何もしないのなら、私たちも人間ではない」とイライザは主張します。
このあたりは、恋人としての発言なのか、人間としての発言なのか、どうなんだろうと気にかかったほどです。細かくて意地悪な指摘なのでしょうか。
それでも、半魚人の「彼」との恋に対する周りの理解については、観ていてとても心地が良かったです。
主人公を取り巻くキャラたちの孤独が魅力的
今作ではむしろ、イライザと‘彼’を取り巻く仲間たちのキャラ描写こそ楽しく見れた気がします。
まずは、隣人のジャイルズです。個人的には彼のストーリーが一番泣けるものがありました。
主人公と同じく孤独な存在です。いつも、カツラをつけてパイ屋に通うのですが、彼はゲイで、パイ屋の店員とお近づきを図るためだったことが中盤になって判明します。
冷蔵庫に好きでもないパイだけが溜まっていく様子の切なさたるや。
ホフステトラー博士も孤独な存在でした。ソ連側のスパイとして、アメリカの研究所に潜入。
スパイとしての使命と、生き物への尊重と敬愛の狭間で、自分の判断をしていく姿は観客にとっては安心出来る存在でした。
こうした孤独なものたちが集まって織りなされる研究所からの脱出劇には、誰もが胸を熱くしたことだと思います。
今回は敵役のストラックランドも面白く見れました。言うなれば、敵でありながら、主人公らと同じく孤独な存在なのだと感じました。
あれだけ憎まれ役を演じながら、その家族との時間や中間管理職っぷりが描かれるのです。
虚勢を張ってキャデラックに乗ったり、ポジティブシンキングについての自己啓発本を読む姿には、悲哀すら感じました。
その意味で本作は、イライザと彼のラブストーリーとして観るより、孤独なものたちの群像劇と捉えた方がより面白く感じるのではないかと思います。
何だか記事を書いてるうちに本作の評価が上がった気がします笑