パッケージデザインからは想像できないストーリー
パッケージデザインからは想像も出来ないほどの、辛い貧困の家族を描いた映画「フロリダプロジェクト」。
驚きの結末が賛否を呼んでいますが、私はいつまでも余韻に残る良い作品だと思います。
舞台は、アメリカ、ディズニー ワールドが近くにあるフロリダ。ディズニーの近くということで、色んな経済が成り立っていることが画面の端々から伝わってきます。
そこにあるマジックキングダムという名前の安モーテルに住むヘイリーとムーニーの家族の日常が描かれます。
友人が働くレストランから食事を分けてもらったり、香水の押し売りなどでその日暮らしを続けてきましたが、やがて少しずつ日常が厳しくなっていく様子が描かれます。
監督はショーン・ベイカー。
前編iPhoneで撮影されたと話題になった「タンジェリン」の監督です。
過度に同情を促さない距離感
同じ貧困にあえぐ家族を描く傑作といえば、ジャンルとして一定程度あるように思いますが、他の作品と一線を画すのは、貧困を描いておきながら過度に同情を促さない作りになっていると思いました。
子どもや親が底抜けに楽観的で厳しい現実があっても、明るく、そして、自分の尊厳を守りながら暮らしていたこと。
母親が、あまりに楽観的過ぎて、むしろ無責任にすら感じさせること。
そして、それを映し出す風景描写がとても明るくビビッドであること。
これら3つの要素から、よくも悪くも距離感を保っていたような気がします。
今から思えば、万引き家族も同時期に公開されたのもありますが、万引き家族も非常に良いバランスだったとかもしれません。
この世界の現実と夢の世界への逃避
その距離感は、管理人であるボビーに現れていました。
ボビーは家族を陰ながら見守りますが、モーテルの管理人として、自分の職務の範囲は絶対に超えてきませんでした。
観客はその優しい眼差しに安心感を得ながら、同時に無力であることも知るのです。
それがでも、この世界の現実です。
賛否を呼んだラストは、個人的に賛です。
確かにあれは、物語の決着への究極の「逃げ」とも言えますが、この世界の現実はどうしようもないことへの裏返しを表しているようにも思えます。
「救い」が存在しない世の中で、せめて映画で提示しうるのが、この世界からの「逃げ」なんだと感じました。
その後の2人は何がある訳でもありません。
それまで淡々と現実を描いてきたから、物語の飛躍が欲しかったんだと理解してます。
子供達の日常演技・演出に脱帽
独特のストーリーテリング意外にも、やはり見どころは子どもたちの日常演技でしょう。
その家族にどんな背景があろうと、子どもは子ども。その生き生きとした演技はそれが思わず笑みが溢れてしまいます。
子どもたちが取っている行動、悪態も決して許されないものではありませんが、それが子ども達が生きてきた世界な訳です。
それだけに、中盤以降の入浴シーンで、一人で遊ぶムーニーと大音量の音楽の意味に気づいた時の胸の苦しさたるや、です。
そして、ラスト。全てを悟った子どものあの表情と行動に熱くこみ上げるものがあるのは当然です。
それだけでも観る価値のある大傑作だと感じました。
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