私が微生物に興味をもったのは目に見えない微生物の働きによって目に見える現象がおこることにあります。特に微生物と他の植物や動物の共生の事例というのは面白いです。マメ科の植物の根には根粒というこぶのようなものが見られますが、その根粒の中には微生物(リゾビウムという最近)が存在し、植物の成長に協力します。このような目に見える〈根粒の形成と成長促進〉が目に見えない〈微生物〉によって引き起こされることに興味があるわけです。
その共生の事例のなかでも,特に興味を喚起されたのがボルバキアと虫との関係です。この記事においては,アズキなどの害虫であるアズキノメイガの性の決定システムをボルバキアが支配しているというセンセーショナルなタイトルです。なんと,ボルバキアに感染されたメスは,その生む子供が全部メスになり,オスが生まれたとしても幼虫のうちに死んでしまうというのです。
上の記事ではアズキノメイガの例を出していますが,ボルバキアは実は昆虫やダニやカニなどといった節足動物の数多くの種類との感染例があり、特に昆虫などでは65%以上100万種類もの昆虫でボルバキアの感染が報告されています。
そしてボルバキアは宿主である生物の細胞の中(細胞内)に生息していて,宿主が卵を産むときにその卵を通じてそのまま子供にも感染するのです(垂直感染)。
ボルバキアにとって感染範囲を広げようとするとき、卵を通じて広げていくので,卵を産めるメスが多い方がボルバキアの感染拡大に有利に働くのです。そこでボルバキアの宿主の性を支配し、ボルバキアが感染しているメスを増やす特性として以下の4つの特性を発達させています。
(1)細胞質不和合
(2)オス殺し
(3)メス化
(4)単為生殖化
簡単に説明していきます。
(1)細胞質不和合
ボルバキアが宿主に与える影響として最もよくみられる現象です。これは感染したオスと 非感染のメスとの間でできた卵は正常に発達しないというものです。非感染同士,感染同 士,感染したメスと非感染のオスでは,正常に発達します。メカニズムとしては,感染オス由来の染色体では,受精後の細胞分裂に異常をきたすようです。そこに感染メス由来の染色体の存在によって異常が正常へと転換されます。そのおかげで感染同士では正常に受精卵が発達するのです。
このことは何を意味するのか?この現象が起こると,非感染のメスは感染したオスとの間で子孫を残すことができません。したがって世代を経ていくと非感染のメスは淘汰され,感染された個体の割合が集団内で増えていくのです。おそろしやボルバキア。
4つすべて今回の記事で記すと多くなってしまうので、続きは次回以降にしたいと思います。