映画にみる食農表現シリーズ
今回から映画の中の「食」や「農」の表現について紹介していきたいと思います。
映画の中の農業表現というのは、その社会的背景や世間の農業に対するイメージを如実に反映するものだと感じます。つまり、映画の中の農業表現を通じて、より良い農業を考えるヒントになれば、と思っています。
というのは理想で、雑感に終わる可能性も大なのですが(笑)
まずはじめに紹介するのは
映画「深呼吸の必要」です。
詩人・長田弘さんのタイトル「深呼吸の必要」から企画された作品とのことです。
主演は、香里奈、谷原章介、長澤まさみ、成宮寛貴と2004年の作品ですが、今から思えば豪華メンバーですね。
さて、舞台となるのは沖縄の離島。さとうきび畑です。
沖縄のさとうきび畑では、12月〜3月にかけてさとうきびの収穫が行われるのですが、わりと人手不足なようで、住み込みアルバイト「キビ刈り隊」として全国からアルバイトを募集しているみたいです。私は知らなかったのですが、このバイト割と有名だそうで。
この映画は、まさに「キビ刈り隊」が題材となってまして、キビ刈りを通じた若者の成長を描いてます。
これがなかなか映画としても、自分の中では大変面白く感動しました。
その要因の一つが農業表現でしょう。
正直観る前は、「さとうきび刈りを通じた若者の成長物語」という物語のプロットだけ聞き、農業万歳!青春!自然豊かで心も豊か!
みたいなキレイゴトとしての農業体験が描かれるのではないかという危惧がありました。
実際にはさとうきび刈り作業自体のしんどさ。
納期が厳しくさせている産業としての側面。
刈ったきびを小汚ないトラックで運搬に来る泥臭さ。
農業自体のもつ3K部分がきちんと描かれていました。
農業自体が過度に美化されることのない、バランスのとれた表現になっているのです。
農業体験を通じての成長というのも、湿っぽい演出に走らず、どことなく心に染み入るような表現で非常に好感を持てました。映画の序盤で、主人公らそれぞれに過去に何か抱えていることが示唆されますが、はじめに主人公らのホスト役、大森南朋がいうように「言いたくないことは言わなくて良い」精神で、絶妙に過去にたちいらない作りになっています。
それでも、確実にきび刈りは、主人公たちの心に影響は与えていて、そのことが実際のきび刈りシーンにも表れています。最初はたどたどしく、あるものは面倒臭くなりながらかってたのが、こなれている以上に、心の変化がキビ刈りに表れていたように私には見えました。農業シーンが、ちゃんとストーリーともリンクしていると思ったのです。
それにより、主人公たちの心になんらかの変化をもたらすものとして農業体験が納得感を持って描かれているのです。
あまりストーリー的には起伏のない、ややもすると退屈に感じられる映画ですが、それでも最後には心が晴れやかになれる。そんな良作です。