見終わった後、じーんといつまでも心に余韻が残り続ける大傑作です。
今をときめく細田守監督の感動作です。
しかしながら実はこの映画、ものすごく絶妙なバランスの映画です。
一歩間違えれば完全にキレイゴト映画ですし、この映画に対する批判の多くはそういう部分、つまり、美化されたストーリーにあるのではないかと考えています。
入念な取材によち裏打ちされた農村のリアル
ここでは<映画における食と農>という記事になるので、この映画の農村風景がメインで描写される、田舎に引っ越した後から小学校入学前くらいのシーンを中心にみていきたいと思います。
ただ、正直このあたりの農村描写自体も美化されすぎていると指摘がある部分ではあります。つまり、こども二人(しかも半分おおかみ)を抱えたシングルマザーが身寄りのない田舎にイキナリ引越し、こんなに上手く行くはずない。ご都合主義だ、と。
まず、私個人の意見としては、確かにキレイゴトだと思われる微妙さはあるけれども、おそらく入念な取材により、裏打ちされているであろう農村のリアル表現とロジカルなストーリー展開、演出によって、見事にバランスを取りきっていると考えています。
実際にいくつか見ていきましょう。
① 人里離れた廃屋に住むか?
普通イマドキの若い子はこんな人気のなくて蜘蛛や蛇が出てきそうなおどろおどろしい廃屋に住まないでしょう。
というツッコミについては、物語上の必然性で以って回答できます。
なんと言っても主人公は、オオカミ子供を二人抱えていており、できるだけ一目に触れないところで住みたい、いや住まなければならないのですから。
この部分について、ちゃんと町の職員も「こんなとこ住むわけないよね、次行こう」ってな具合に「こんな人里離れたところに住むわけない」とツッコミをいれております。
この映画ちゃんと観客がツッコミいれそうなところをちゃんと映画内でツッコむとともに、それに対してアンサーも用意しているというところが見事だと思います。
② 急にいろいろ優しくしてくれるおじちゃんたち
これも①と同じですが、花が急に農村民たちに受け入れられていく描写はなんともご都合主義的に映るかもしれませんが、これもきちんと映画内でアンサーが出ています。
そう韮崎のおじちゃんですね。韮崎のおじちゃんは農家のなかでのリーダー的存在として描かれています。花に急にいろいろ教えてくれたおじちゃんたちも韮崎のおじちゃんがけしかけたものです。
実は、この「リーダーに認められると、農村全体で認められる」というのは本当に実際の農村でありえます。
農村というのは良くも悪くも閉鎖的ですから、リーダーの存在というか、意見は絶対です。たとえ良き理解者が一人いたとしても、リーダーに認められていなければ、打ち解けることができません。その意味で映画はご都合的に見えるかもしれないですが、実は超リアルな描写なのです。
そのあたり、映画ということで表現の時間が限られており、どうしても花の打ち解けがトントン拍子に見られてしまうのはもったいないところです。花自身も韮崎のおじさんに認められるまでには相応の時間がかかっていることは映画内の時間経過に目を凝らせば理解できます。
③ 獣害あるある
あともう一点、農村全体が、獣害で悩まされているという表現もきちんと描かれていたのがリアルでした。獣害というのは確かに日本全国どこでも被害にあっていると思って良いです。そしてこの獣害こそが、農村部で就農したいと考える若者にとって大きなハードルになっていたりもします。
その部分も、映画ならではの設定で解決しています。映画ならではというのは、リアルではあり得ない設定です。明示はされていないのですが、雨と雪がするオオカミのオシッコによって獣害を避けることが可能となっているのです。
そして獣害回避⇨じゃがいも収穫⇨さらに農村で受け入れられるきっかけに!という好循環が出てくるのですね。
そのほかにも農家によってコダワリが違うとか、ひとつひとつが丁寧な描写でかつ物語上の課題解決にロジカルに作用しているので、綺麗ごと臭く無くすっと胸に入ってくるのですね。
はしょられてるけどきちんと花は苦労しており、オオカミコドモという映画ならではの設定で解決しているということを踏まえると、田舎暮らしそんなに甘くないぞ!という批判はあまり当てはまらないのかという気がします。
今回は農村描写ばかりをつらつらと書きましたが、実はこの映画語っても語り尽くせないほど語りたい内容が充実しています。そういう語れる映画が大好きな私にとって、この映画は最高すぎるというわけです。
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