三児の父はスキマ時間でカルチャーライフ

仕事も趣味も育児も妥協しない。週末菜園家が、三児の子どもたちを育てながら、家事と仕事のスキマ時間を創って、映画や農業で心豊かな生活を送るブログ

ワンダーウォール 渡辺あやさんの新作ドラマは青春の心を揺さぶる傑作でした

何を隠そう、私は京都大学出身です。

同時に渡辺あやさん脚本のドラマや映画はどれもとても大好きでもあります。

池脇千鶴と妻夫木くんの関係が痛ましいジョゼと虎と魚たちや、田中泯の存在感がすごいメゾンドヒミコ、ナチュラルな演技で震災被害者のリアルとその一夜を描いたその街の子ども。

渡辺あやさんの脚本は、どの作品も良いとか悪いとか、正しさとか間違ってるとか、はっきりと白黒を付けません。ステレオタイプな価値観に揺さぶりをかけるような、セリフ回しにハッとさせられるのです。

 

 

そんな私が、彼女の新作ドラマ「ワンダーウォール」を見ないわけがありません。BSプレミアムで放送されているのは知ってましたが、衛星契約してないので、なくなく見逃しました。

今回地上波で再放送ということで、鑑賞です。

またもや大傑作です。

 

物語は、京宮大学の近衛寮の老朽化について、建て替えをしたい大学側と存続を訴える学生たちの対立を描きます。モデルになっているのは、京都大学吉田寮の対立そのままです。

この設定だけきくと、学生たちが、巨大権力に対していかに立ち向かっていくかの話を想像するかもしれませんが、ここは渡辺あやさん、主題は別にあります。

大学との対立というのはあくまで舞台設定で、その抗議活動の中で学生たちが何を想い、どうたち振る舞うかという非常にパーソナルな感情の部分に焦点が当てられます。

 

序盤はそれぞれの登場人物の視点からそれぞれ寮に対する思いの独白が描かれます。

徐々に浮き彫りになっていく学生間の温度差や学生たちの迷いなどが物語の厚みを生み、その重厚さに圧倒されていきます。

 

「ある日の一夜」を描いていることもプラスの作用をもたらしています。

この物語はある学生自体寮の話であると同時にすべての学生たちの話です。誰しも夜を徹して仲間と語りあった経験はあるんではないでしょうか、この語りこそが学生の本分であり、吉田寮にはそれが凝縮されているのだと思います。

この語りが、夜明けシーンのカタルシスに繋がります。あぁ、あったわ、わたしにもこんな青春が、と。

 

そしてラストはさらに、学生たちが置かれた境遇や気づきに思いを馳せることになります。

寮生たちが存続を訴える理屈の1つでもある伝統と文化という100年を越える歴史。

一方で登場人物である三船は4回生。2014年に吉田寮に惹かれ、2018年に吉田寮が幕を降ろす。

吉田寮自体は長い歴史を持ちますが、そこで暮らす学生たちは基本4-6年の間の話です。

 

このことは、吉田寮の歴史や文化が、連綿と学生に受け継がれてきた事に感服させられると同時に、学生個人の人生で見たときにあまりに刹那的であることに気付かされます。

そのことが、どうしてこんなにも悩み苦しむことになるのだろうか、という三船の言葉の背景にあるのではないだろうかと考えます。

 

単に大学は悪や理不尽だけに着地しない結末に渡辺あやさんの物語に感心させられるばかりなのです。

 

京都発地域ドラマ「ワンダーウォール」|NHKオンライン