映画を観るときの鑑賞ポイントは人によりまちまちだと思います。
ストーリー、役者の演技、アクションなどなど。
私はその中でも脚本の面白さを重視します。結構脚本家の名前で観る映画を決めたりもするぐらいです。
完璧に作り込まれた絵づくり
ストーリー面では「犬ヶ島」は少しばかり退屈と言えるかもしれません。
しかしながら、「犬ヶ島」にはそれ以上に映像の美しさで魅せる映画です。
完璧に作り込まれた世界観と言っても良いかもしれません。
監督は「ウェス・アンダーソン」。シンメトリーな画作りなどその映像のアート性に高い評価を得ている監督です。
前作「グランド・ブタペストホテル」でもその才能がいかんなく発揮されていました。
実写でありながらどこかアニメであるかのような役者たちの動き。ホテルの外観、内装など凝りに凝られた美術や色使いなど、様々な要素が非日常な日常を演出します。
犬ヶ島は、前作よりさらに進化しています。実写からストップモーションアニメになったことは大きいです。ワンシーンワンシーンすべて監督の思いを載っけられるからです。実写のような揺らぎがありません。
実際、本作の映像の作り込みは狂気すら感じます。ストーリー自体のテンポが良いため、一回の鑑賞ですべてを味わい尽くすことは出来ないです。
研究所のシーンとか、犬たちの喧嘩などボコスカのシーン細かいところに目を凝らせばそれだけの発見があります。ストーリーの大筋はシンプルなので、映像をみているだけでも楽しめる作品です。
日本と犬独特の世界観
世界観そのものも非常に独特で味わい深いものになっています。
まずは舞台が日本になっていること。
舞台が日本になっていながら、それは見慣れた世界ではありません。「ウェス アンダーソンによって解釈された日本」です。
年代は昭和の雰囲気もありますが、テクノロジーは発展してるし、一方で市役所の建物は神社風であったり、構成要素そのものは日本でありながら、そこで作られている世界はやっぱり独特のものなのです。
そのディテールは素晴らしく、相撲のシーンとか寿司のシーンとか、日本の美しさが表現されています。それは時に過剰ですらあると言えます。
しかしながら、日本の精神性も皮肉にも再現されています。やや誇張された表現ですが、実質一党独裁にあり、多様な言論が許されないような空気が描かれているように思います。
そしてもう一点本作を特徴づけるのが、やはり「犬」でしょう。
まず、「犬自体」の作り込みがすごい。毛並みひとつひとつが立っていて、生きているよう、動く姿は本当にキュートです。
そんな可愛い犬たちが織り成す会話も面白いですね。妙に大人びた感じがギャップがあって、いつまでも会話を聞いてられます。
このあたりは声優さんたちの力もあるように感じます。
特にナツメグとチーフのシーンは、非常にムーディーで「大人な映画」を観ている感覚です。実生活でもこんなやりとりしてみたいという、「憧れ」の対象にすらなるという。まさか「犬」映画のワンシーンに憧れるとは思いませんでした。
ナツメグの声がエロいと思ったら、ハリウッド女優のスカヨハでした。
また声優でいくと、少年アタリの声も特徴的でした。
ランキン・こうゆうさんというハーフの方が声優をしているようです。朴訥ながら、底に感じる熱い思いが心を揺さぶります。ストーリー展開が淡白なのに、要所要所のセリフで人の心を動かすもいうのはなかなか出来ることではありません。
映像づくりという意味では本当に唯一無二の存在もいえるウェス・アンダーソン。存分に楽しませていただきました。
あ、音楽も良かったなぁ。