三児の父はスキマ時間でカルチャーライフ

仕事も趣味も育児も妥協しない。週末菜園家が、三児の子どもたちを育てながら、家事と仕事のスキマ時間を創って、映画や農業で心豊かな生活を送るブログ

アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル 事実の多面性とは何か?

 

知らない人は知ってから鑑賞を

映画を鑑賞する前にどれくらい事前情報を入れて臨むかというのは大きな問題です。こと伝記モノの映画については、事前に概要は掴んでおいた方が楽しめます。

そんなことを再確認させてくれたのが、映画「アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル」です。

本作は、アメリカ女性で初めてトリプルアクセルを成功させたスケーター、トーニャ・ハーディングの一生を描いた作品です。彼女も出場したリレハンメル五輪の直前、彼女のライバルであるナンシー・ケリガンが襲撃される事件が起きます。事件の黒幕とされた彼女の元夫が逮捕されます。彼女にも事件への関与の疑惑がもたれるなど大きなスキャンダルとなりました。

そのスキャンダルの裏側も含めて、本人や元夫、母親へのインタビューを基に作られたのが本作になります。

正直私にとっては、世代が違うので、トーニャ・ハーディングはもちろんナンシー・ケリガン襲撃事件のことも、この映画で初めて知ることとなります。

 

事実の多面性

この映画では、事件やトーニャ・ハーディングに関わってきた様々な人の視線で語られます。そこでは、それぞれの立場からの「事実」が語られるのです。

この事件も当時ワイドショーなどで大きく消費されるのですが、こうした情報がいかに一面的な情報なのかを思い知らされることになります。

確かに、wikipediaなどの情報を観る限り、元夫が襲撃事件に関わっている限り、状況から察してトーニャ・ハーディング自身が事件に関わっていることをどうしたって疑ってしまいます。

 

主人公に対してバランスの取れた眼差し

しかしながら本編を見ると、決してそうではありません。母親からの虐待まがいのスパルタ教育や夫からのDVを受けながら、「スケートしかない」人生を歩んできた彼女に感情移入する作りになっていますし。実際には単一の原因があって襲撃事件が起こったわけではなく、細かい事実の積み重ねと歯車の掛け違いがああいうことになってしまったということが分かります。

上手いなと思うのはトーニャ・ハーディングに感情移入するつくりになっていながら、彼女に肩入れすぎないバランスになっていることです。

彼女は何かというと、「わたしのせいじゃない」と自己弁護するし、夫との喧嘩の要因も作ってきたし、審査員の心象を悪くする行動もいっぱいしてきた。

彼女の境遇に同情する内容になっていながら、距離感も保っているのがスマートだと感じるのです。

 

そして、バランスをとっていながら最終的にエモーションを呼び起こすラストに感動を覚えます。ラスト演技前の鏡の前のマーゴット・ロビーさんの涙やその後の人生に胸が厚くなるのです。

人の人生を、ある一回のスキャンダルだけで判断してしまうことの危うさを訴えかけているような気がしました。