現代のアメリカを描いた社会派ホラー
映画に目の肥えた人だったら気づいていたかもしれません。
でも、私はまんまとだまされてしまいました。いわゆるドンデン返しです。
世間的にはドンデン返しよりも社会派ホラーとして知られている本作「アス」 。
監督のジョーダン・ピールは、前作「ゲットアウト」のアカデミー賞脚本賞の実績で一定の評価を得ています。ゲットアウトが社会派ホラーとして評価される理由は、ホラーでありながら、人種差別問題を扱っているからです。
本作は、その期待のジョーダン・ピールの監督2作目です。
映画タイトル「Us(アス)」にもある通り, United statesつまりアメリカを風刺した作品になっています。
実際、作品内でも、主人公家族を襲うドッペルゲンガー集団が 「我々はアメリカ人である」と、わりと直接的な表現を使っています。
今回は人種差別というよりは,貧困や格差の問題を描いてい ます。
地下と地上。 ボート。オフィリアとよばれるスマートスピーカー。いろんな場面で格差や貧困が表現されています。
本作も「社会派」と呼ばれるジョーダン・ピールらしい作品になっていると思います。
ただ、私にはこのあたりの社会派表現が、 純粋にホラー・ スリラーとして楽しむ際にはちょっとノイズになってしまったかな、と思いました。
ハネケのファニーゲームを想起させる襲撃
物語は、冒頭主人公ルピタ・ニョンゴ演じるアデレードが、家族で訪れたサンタクルーズの遊園地で、はぐれてしまい 、迷い込んだ鏡の迷路で自らのドッペルゲンガーに会うところからはじまります。 その時のショックで、口がきけなくなってしまうものの,時は現代まで一気に進みます。主人公アデレードが家族を持ち、今度は親になって、みんなでサンタクルーズの家に出掛けると、そこで赤い服を着た自分たち家族にそっくりな集団(ドッペルゲンガー)に襲われます。
家族が不可解なグループに襲撃されるのは、ミヒャエル・ハネケの 「ファニーゲーム 」を想起しました。
ファニーゲームが、家族が不審者2名に理不尽に襲撃される「だけ」の映画なのに対して、
本作における襲撃は物語の一要素になっています。何より、本作は家族が反撃にまわるので、 ファニーゲームほど胸糞は悪くありません笑
ただ、話の通じない相手に襲われるというのは、共通点と言ってよいでしょう 。
このファニーゲーム部分が本作の見どころになっています。
なぜ家族と同じ顔なのか?
理性があるのか,ないのか?
話せるメンバーがいるのはなぜなのか?
なぜ赤い服なのか?
主人公家族が、どうサバイバルするか、への典味と同時に、これらのハテナがあることで次の展開から目が離せなくなっていきます。
そうこうしていると新たなメンバーが出てきて謎が謎を呼びます。
このあたりのミステリ一部分は後ほど全部解決します。伏線が散りばめられた、ち密な作りになっています。 ただ、ストーリーがお利口さんになっている分、ホラーとしての面白さが後半尻つぼみになっていったのが非常にもったいないと感じました。
スマートだけどホラーとしては失速
話を前に進めるためなのでしょうが、主人公家族が結構強いんですよね。 主人公の家族たちが子 どもも含めて敵をやっつけてしまうのです。 はじめこそ、いつ襲われるか分からない恐怖でドキドキとしていたんですが、後半は、みんな何とかなるだろう、という気になってきてしまいます。
途中から物語のスケールも大きくなってきて、謎解きシーンまでゆっくりと説明されるのもあいまって、ファニ ーゲーム的理不尽さや緊張感がどんどん薄まっていきます。
しかしながら、このスケール感と謎解きこそが、ジョーダンピールらしい 「社会派」に通じる要素になっているので難しいところ。
本作に限っては,社会派というテーマと主人公が置かれているホラーな状況との食い合わせが悪かったかなって思ってしまいました。
そういう理由で、ラストの対決に至るまで、少しテンションが尻すぼみになっていく感覚がありました。特に謎解き部分は正直、若干の荒唐無稽さもあって、色々とハテナマークも出てくる解説になってしまっていると感じました。解説自体も、解説然としていて、ちょっとストーリーのテンポが遅くなったかな、という印象です。
しかし、そこはジョーダン・ピール。最後の最後で巻き返します。
伏線の回収はさすが、アカデミー賞脚本賞受賞歴
あっと驚く仕掛けが用意されていました。ここの部分だけできっちりと良い鑑賞後感をもたらしてくれていました。作品自体の評価も上がり、心に残る映画となったと言っても過言ではありません。
ここについては、トリック自体は使い古されているので、鑑賞しながら気づいていた人もいるかもしれません。ただ、私自身は気づきませんでした。ただ、いずれにせよ、そのラストに至るまでの伏線がきっちり貼られていた事に感心しました。気づいていたとしても、その仕掛け方にはみなさん納得だったのではないでしょうか。
幼少時代のトラウマで口が聞けなくなったことが、最後ああいう形で解消されるとは思っていなかったですから。アデレードの息子の最後の眼差しもよかったですね。あれ、こいつ気づいたの、的な。
ミスリーディング的な表現も含めて、さすがはアカデミー賞脚本賞受賞監督です。
社会派ホラーということですが、社会派としての側面はあまり構えずに、純粋に楽しんだ方が、楽しめる作品になると思いました。怖さ控えめですが、計算されたホラー作品としての作り込みを満喫できます。