「私が先に使ってた!」
「私は全然使ってないもん」
長女で6歳のレイちゃんと次女で4歳のアスカちゃんがおもちゃの取りあいをしています。
喧嘩は激しさを増し、最後はどちらかが手を出します。
「お父さん、アスカちゃんが、手をギュってしてきたー」
レイちゃんは泣きながら、訴えてきます。
これが、いつもの姉妹喧嘩で、我が家の日常茶飯事です。
大体最後は、姉のレイが折れて、妹の非行を泣きながら訴えます。
レイちゃんの方が、心優しいのか、すぐに泣いてしまうのです。
アスカちゃんの方は、どうやら気が強そうです。
勝ち負けをつけるなら、普段の喧嘩では、アスカちゃんが勝つことの方が多い気がしています。
ただ、レイちゃんの方も、アスカちゃんを叩いたりするので、最終的には喧嘩両成敗になることも多いです。
「仲良く遊んでね。」
なんていう生優しい言葉は、二人には届かずに、宙をさまよって、やがてフェードアウトしていきます。
結果、次の日も、その次の日も、やっぱり姉妹喧嘩を繰り返します。
喧嘩することが多いのは、仲が良い証拠かな。
喧嘩はうるさいけど、家庭内が賑やかで、それもアリかな。
アスカが、レイにちょっかいをかけるのは、「好きの裏返し」かな。
そんなことを思いながら、はじめのうちは激しい喧嘩をしてても、微笑ましく捉えていました。
でも、その喧嘩が日に日にエスカレートしていっているのが、少し気になり始めたのです。
それはレイちゃんが編み物をしている時のことでした。
最近レイちゃんは、編み物にハマっています。
やっぱり女子っていうのは、編み物とかそういうものにハマるんだな、って思うと同時に、自分には教えられない分野だし、混ぜてもらえない分野だし、自分自身もそこまでは興味が持てない分野だな。
など、女子の道へと進むレイちゃんに、少しばかりの寂しさも感じていました。
子どもがやっているとはいえ、編み物は編み物。
小学生向けに発売されている編む道具「ラブアミ」を使って、編み上げていきます。
このラブアミは、編む道具を自分でパーツで組み立てて、編み方をいろいろ変えられるのが特徴です。
編み物といえば、おばあちゃんがゆらゆらとゆりかごに乗りながら、編んでいるイメージですが、ラブアミは、ピンクと水色の可愛いパーツで構成されていて、いかにも幼児が喜びそうです。
でも、それで出来たマフラーを見ると、なるほどしっかりと編み込まれています。
私自身は、生まれてこのかた、編み物なんて全く経験がなかったので、その出来栄えに素直に感心していました。
そして、マフラーを作って勢いに乗ったレイちゃんは、最近は「くまのぬいぐるみ」という大作に挑んでいたのです。
ところが、です。
「やめてよ、さわらないでよ」
またもレイちゃんが、アスカちゃんに怒っています。
アスカちゃんは、レイちゃんが一生懸命毛糸を編んでいるのを邪魔するのです。
4歳のアスカは、毛糸を踏んだり、編んでいる最中のぬいぐるみの欠片を触ったりします。
「集中できない」
レイはたまらず、アスカに手を出します。
アスカもそれに応じるような形で、レイの手をつねります。
「お父さん、アスカちゃんが、手をギュってしてきたー」
レイちゃんは泣きながら、訴えてきます。
レイちゃんが泣いて、妹の暴力を訴える。その構図はこれまでと変わりません。
でも、心配なことがありました。
今回は、完全にアスカちゃんがちょっかいをかけて始まったことなのです。
しかも、そのちょっかいが極めて理不尽で、意地悪に近いものでした。
これまでの、単なるおもちゃの取り合い、とは若干事情が違っていることに気が付いたのです。
アスカちゃんの、この「ちょっかい」は編み物の時に始まったことではありませんでした。
思い返せば、以前から、わざとレイちゃんがしている遊びを邪魔したり、それまで興味も示していなかったのにレイちゃんが遊んでいるおもちゃを奪ったり、なかなか強気な意地悪をしかけていました。
「一体どうしてこんなことするの?」
問いかけても、アスカちゃんは、首を横に振るばかりで答えてくれません。
「アスカちゃんも、くまのぬいぐるみ、作りたかったの?」
妻がそういうと、アスカちゃんは、泣きながら、首を縦に降りました。
そこで、気が付いたのです。
アスカちゃんの「ちょっかい」の原因は、アスカちゃん自身の「やりたいけど、出来ない」にあったのではないか。
それはつまり、お姉ちゃんであるレイちゃんへのコンプレックスにあったのではないか、ということでした。
我々にとっては、長女のレイちゃんに対する育児が、育児の最先端です。
レイちゃんの初めては、我々にとっても初めてです。
初めて、立った。
初めて、歩けた。
初めて、竹馬に乗れた。
初めて、自転車に乗れた。
初めて、編み物ができた。
その全てが、親にとって新鮮で、そのたびに褒めてしまう。
でも、2歳差のアスカちゃんはそれを見てどう思っているのでしょうか?
レイちゃんは、最先端を走っているので、
自転車も編み物の道具も、年齢に応じて買い与えています。
それを見て、アスカちゃんはやりたいと思っても、出来ないので我慢を強いられているのかもしれません。
私たちはついつい、アスカちゃんが何か出来るようになると、レイちゃん何歳の時に出来たかな、とかお姉ちゃんとの比較の中で語ってしまいがちです。
そうした、年齢の差、おもちゃの差、対応の差、それぞれの積み重ねが、アスカちゃんのコンプレックスを生んでいったような気がしています。
単なる姉妹喧嘩の背景には、妹の姉への羨望があったのかもしれません。
言葉にできないその気持ちが、アスカちゃんの意地悪な行動にあわれていた気がします。
これからは、アスカちゃんの、はじめて、に向き合っていく必要がある。
今は、そう思って、アスカちゃんでも出来そうな初めての○○を探しています。