ほうれんそうの花が咲く頃、農家が苦しむ話をします。
我が家では、毎週末、貸し農園の畑作業に汗を流しています。
すっかり春の陽気になった今日この頃、いつものように畑に向かうと事件が!
ほうれん草の花が咲いていたのです。
そう、春は花の季節です。
野原の草や山の木々もたくさんの花を咲かせる季節です。
もちろん、野菜だって元はといえば植物です。
春になれば、ちゃんと花が咲くのです。
でも、これは農家にとっては良いことばかりではありません。
葉っぱを食べるほうれん草や小松菜、根っこを食べる大根については、花が咲いてしまうと食べられなくなってしまいます。
ほうれん草でいえば、茎が硬くなってしまうのです。
今回収穫したものはお浸しにして食べてみましたが、食べられないことはないといった印象でした。
でも、プロの農家としては、やはりこの品質のものは世に出すことはできません。
育てた野菜が収穫出来ない。春は販売できる野菜が極端に少なくなる。
花が咲く季節の春は、農家にとっては嫌な季節なのです。
どうして植物は、春に花を咲かせるか。
植物には、花を咲かせるスイッチがあります。
今回収穫したほうれん草。実は1月の一番寒い時期に撒きました。
一番寒い時期を耐えて耐えて、ようやく3月、4月に収穫できる大きさになってきました。
寒い時期を超えて、日が長くなり、暖かくなるのを感じると春を感じて花を咲かせるわけです。
この暖かさが、花を咲かせるスイッチです。
考えてみれば、人間も気温の変化で、春を感じますよね。
「寒くなってきましたね。」
「暖かくなりましたね。」
「日が長くなりましたね。」
こんな些細な日常会話の中で、季節を感じることができるのです。
植物もそれと同じで、寒いと冬を感じ暖かくなると、春を感じるわけです。
春は寒い冬を乗り越えてこそ
ここでポイントが一つあります。
春は、寒い冬を乗り越えてこそ。
そう、植物が花を咲かすのは、単に日が長いとか、単に暖かいからだけではありません。
寒い冬の時代を経験してこそ、春だと感じるわけです。
さながらそれは、受験生が真冬にコタツに入って夜遅くまで寒さに耐えながら勉強し、晴れて受験に合格すれば、文字通り花を咲かせるかのごとくです。
私の撒いたほうれん草は、寒い冬を経験したからこそ、花を咲かすスイッチが入ったのです。
このことを応用して、チューリップの球根をわざと冷蔵庫に入れて、擬似的に「冬」を経験させた後、外に出して花を咲かす。
こんなふうに、植物を勘違いさせて花を咲かせる手法もとられたりしています。
冬を経験すると春に花が咲く。
このことは、農家にとっては、春は収穫のエアポケットになるということです。
下の図を見てください。
4月の欄だけが収穫できない季節になっていることが分かりますでしょうか?
要はほうれん草は、種を撒いた後、収穫できるようになるまで1ヶ月はかかります。
気温が寒いともっと時間がかかります。最大で3ヶ月程度でしょうか。
冬に種を撒くと、収穫は3月中になります。
4月に入ると花が咲いてしまうからです。
それならば、暖かくなってから撒けば良いのではないか?
ただし、春分の日である3月下旬以降に撒くとすると、ほうれん草が大きくなるまで、1ヶ月程度かかってしまうので、収穫は4月の下旬になります。
つまりいつ撒いても、4月はどうしても収穫できない期間となってしまうのです。
農家にとっては、その間は無収入に近い形となってしまいます。
1年で一番収入が落ちる季節かもしれません。
皆さんもスーパーにいってみると、この時期野菜の種類が少なくなることが分かります。
山菜など山の恵みが出回るのもこの季節です。
春は夏野菜のスタートの時期
でも、春は悪いことばかりではありません。
お金の収入はないけれども、夏野菜のスタートの季節です。
ですから、野菜農家はこの季節だんだんと大忙しになってくるのです。
日本って、4月に入学式があって、3月に終わります。
これって、農業の営みをベースにしているような気がするのは私だけでしょうか?
4月になると花が咲いてしまうので、3月中に収穫を終える。
4月に入ったら、もう新年度のスタート。夏野菜である、トマトやきゅうりを植える準備を始めるのです。
私が借りている菜園も、花が咲いたほうれん草を始め、秋冬野菜のいろんなものが収穫の終わりに近づいています。大慌てで収穫を終えて、夏野菜の準備に入ります。
以前に紹介した夏野菜に向けたベッドメイキングを本格化させるわけです。
種を撒いてからじっくり育てて収穫し、それを出荷することで収入を得る。
自転車操業とは程遠い農業という産業。
はじめに、ほうれん草の花が咲くと農家が苦しむ。
なんて書いてしまいましたが、自然のままを受け入れるのが、昔からの農家なのだと感じています。