ホームセンターに並ぶ動物の糞
この季節、ホームセンターの園芸コーナーに行くと、鶏糞や牛糞などの動物の糞がたくさん積まれています。
これらの糞は、家庭菜園に使う、いわゆる園芸用品。
夏野菜の準備として、土づくりに必要なものです。
夏野菜を植えるシーズンは、ここぞとばかりに外の売り場面積を拡大して、糞を積み上げるのです。
動物の糞と言っても、それらはすべて、20Lだか40Lに袋に詰められてます。
とにかく今年のゴールデンウィークは、外出規制もあって、縁日かというくらい、外の園芸品コーナーに動物の糞を求めて、人が溢れていました。
私が借りている畑でも、他の利用者さんが、せっせと動物の糞を撒いている光景が見られました。
動物の糞ですが、市販されているのは、動物が出した生の糞そのものではなく、動物の糞を発酵、乾燥させたものです。
俗に、それは堆肥と言ったりします。
鶏の糞であれば、発酵鶏糞堆肥。
牛の糞であれば、完熟発酵牛糞堆肥なんて言い方もします。
動物の糞を農家が扱いやすいようにマイルドにしたものと、いってもいいかもしれません。
ほら、生ゴミだってそのままだと扱いづらいし、匂いもしますが、乾燥させると水分も減って、扱いやすくなりますよね。
とはいえ、動物の糞であることには違いありません。
菜園の利用者たちが、動物の糞の堆肥を撒いていると、ツーン、と匂いが漂ってきます。
発酵しているといっても、糞は糞なんですよね。
どうしてみなさんは、土づくりの時期になると、糞を撒くのでしょうか?
化学の力が発達して、化学肥料もあるこの世の中で、なぜ、あえて、糞を撒くのでしょうか?
それは、堆肥を撒く行為は、畑において自然のサイクルを再現するのに必要だからです。
化学肥料だけでは自然のサイクルは再現できないのです。
堆肥は森のサイクルを再現する
森の中を想像してみましょう。
森や山の中に足を踏みいれると、様々な生き物が生活しています。
杉やヒノキといった樹木はもちろん、この時期であれば、藤の花がきれいです。
木々だけではありません、少し背の低い木や草花の種類も豊富です。
もちろん動物もいます。
普段は警戒心が強く見かけることもできませんが、鹿や猪たちが沢山住んでいます。
山道を走っていると、リスが車道を横断することもあります。
土の中にいるミミズや昆虫。キノコなどの菌類や目に見えない微生物なども存在しています。
こういったたくさんの種類の生き物が森の中には住んでいて、いわゆる生態系を形作っていくのです。
そこでは、自然のサイクルが営まれています。
当然、森に暮らす動物たちも糞をします。
その糞はどうなるのでしょうか?
土の中に住む、微生物たちによって分解されて、森の中の肥やしになるのです。
それが、畑に糞を撒く理由です。
畑に糞を撒くことで、自然のサイクルを再現しているのです。
実は堆肥というのは、動物の糞だけではありません。
木の枝などを細切れにして発酵させたバーク堆肥や街角の落ち葉を拾い集めて発酵させる
落ち葉堆肥など、植物由来の堆肥もあります。
これも、自然のサイクルと同じことが言えます。
紅葉のシーズンを終えると、樹木は大量の落ち葉を地面に落とします。
街路樹などでも、道の清掃員が落ち葉掃除をしているのを見たことあるでしょう。
「落ち葉はどうなってしまうの?」
子ども科学相談室でもよく相談されているように、地面に落ちた落ち葉は、ゆっくり土の中で分解されて、これまた森の肥やしとなるのです。
植物由来の堆肥も動物の糞と同じように自然のサイクルを再現しているのです。
畑で自然のサイクルを再現すべき理由ー野菜は食いしん坊
一方、私の菜園は、森ではありません。
先日も、私は春夏野菜の準備に向けて、秋冬野菜の収穫を終えました。
春菊の収穫や、大根の収穫を行いました。
大根を引っこ抜くと、あんな小さな種から始まった、植物が丸々と根っこが太っているから不思議です。
春菊も引っこ抜いてみると、こんなにもたくさんの根っこが張り巡らされていることが分かります。
このことは、私が育てた野菜たちが、土の中の栄養分をたくさん吸収していることを意味しています。
畑の土の目線でいくと、畑で野菜たちを収穫するということは、それだけたくさんの有機物を畑の土から奪っているという見方もできます。
そこで、失われた有機物を補うために、堆肥を投入する訳です。
それが、森ではない畑で自然のサイクルを再現させる理由です。
よく堆肥はどれだけ入れたら良いの?と聞かれます。
プロの農家は堆肥に含まれている成分量から計算して、投入量を決めます。
家庭菜園では、1㎡あたり2-4kg程度でしょうか?
実際に、撒いてみると、たくさんに感じるかもしれません。
ホームセンターで売っている堆肥袋はあっという間になくなってしまうでしょう。
でも、トマト一本を育てたことを考えてみてください。
トマトの果実だけでなく、葉っぱや茎も全部合わせたらどれくらいの重さになるでしょうか?
一本でも数キログラムもあるのではないでしょうか?
トマトを育てるには、それだけ畑の有機物を消費するということです。
ですから、ある作物を育てた後に、続けて、何か育てる場合は、それだけの量の堆肥を補給してあげる必要があるのです。
だから、ここで提唱したいのは、畑の土づくりは、森をイメージせよ! ということです。
森は先にお話ししたように豊かな生き物たちの織りなすバランスでできています。
農業はややもすると、そのバランスを欠いた行いになりがちです。
キャベツ畑みたいに、同じ畑に大量にキャベツを植えたら、それは確かに効率的です。
でも、畑の状態は、キャベツが好きな栄養分ばかり、土から吸収されますし、キャベツが好きな虫ばかり寄ってきます。
自然のバランスが崩れることになるので、農薬や化学肥料に頼ることになります。
もちろん、農薬や化学肥料に反対するわけではありません。
森づくりをイメージして農業を行えば、健康的で美味しい野菜づくりに繋がります。
何より、園芸本にそのように書いてあるから、堆肥を撒くのではなく、その意味合いを考えながら作業すると、同じ作業でも楽しくなりますよね。
春先にせっせと撒く動物の糞は、偉大な自然のサイクルの一部となって、次の野菜たちにつながっていくのです。