最近ライトなエンターテイメント映画が流行っている気がします。
先週感想をあげた「EXIT」もそう。パニック映画というジャンルにしては、かなりライトで、シンプルなまでにアクションを楽しむ映画になっていました。
今年一番の傑作「パラサイト」についても、貧困や格差社会をテーマにしているにも関わらず、語り口自体はものすごくライトで、社会派というよりまずエンターテインメントとして一流の作りになっていました。パラサイトについては、ライトに観れるのに、観賞後は胸に重くのしかかるで、「EXIT」とも違う味わいにはなっていて、そこは頭ひとつ抜け出ている印象です。
とはいえ、ライトなエンターテインメントとして、あまり身構えずに見られるのが、双方の特徴だと思います。
今日紹介する映画「T34 レジェンド・オブ・ウォー」も、ものすごくライトに楽しめる戦争アクションになっています。同作は、ロシア製の戦争映画です。ナチスとソビエトの戦いという設定だけをみれば、ものすごく重々しい雰囲気の映画を想像します。
実際、戦争映画というのは、設定自体が重くなっていることが多いので、観る前は多少精神的余裕がある時に観ることが多いです。
戦争映画は観るのに、心の準備というものが必要になるのです。
ですが、この映画「T34 レジェンド・オブ・ウォー」はそんな心の準備は一切要らずに、純粋にアクション映画として楽しめます。戦争の、いわゆる「悲劇的」な側面はあまり描かれていません。描かれていても、結構タンパクな作りになっています。
戦車エンターテイメント
むしろ、これは戦争映画と呼んでいいのかも怪しい。
戦車エンタメといった方が、観る前に抱くイメージとしては正しいのかもしれません。
とにかく、全編戦車の戦闘アクションが貫かれます。
ドラマパートにまで、戦車が出てくるので、戦車成分100%の映画といっても過言ではありません。
もちろん、戦車エンタメなんていってしまうと、一部のミリタリーオタク向けの映画を想像されるかもしれませんが、戦車の知識がなくても、楽しめる作品になっているのでそこは心配ありません。
自然と、戦車の特徴が掴めむことが出来るので、状況説明が上手な映画だと思います。
例えば、冒頭運搬車に乗っているソ連の兵士が、不覚にもドイツの戦車に見つかり、追いかけられるシーン。
主人公でもあるニコライ・イヴシュキンは、助手席に横に乗っている兵に
「戦車の砲台の動きが止まってから4秒数えろ」
と指示を出します。
4秒数えおわったら、主人公は、ハンドルを急回転して、戦車の砲撃を避けるのです。
この一連の流れで、戦車は、砲台の向蹴てから、実際に弾が放たれるまで時間がかかる。
ということが感覚的に分かります。
戦車ならではのタイムロスというか、時間感覚が伝わります。
それが戦争アクションの駆け引きを生んでいて、冒頭の逃走シーンでその設定を自然と観客に習得させているのです。
他にも、序盤の村でのバトルでは、干し草に隠れたり、村の小屋に隠れて奇襲するなど、戦車を使ったステルスアクションのシーンになっています。
戦車だからといって、ただ、ドンパチするのでなく、パズル的な戦略アクションの幅を楽しめるのです。戦車ってこんなにも多様な戦い方なんだ。
実際に、戦車のバトルシュチュエーションも豊富です。
冒頭の村の中、白昼のドイツ演習場(高原)、夜の街中。
いずれもそれぞれの地形にあったバトル展開が楽しめるので、アクション要素が戦車だけにも関わらず、飽きのこない作りになっています。
戦車の見せ場はバトルだけじゃ無い?
戦車の見せ方が、バトルだけでないのが面白いんです。
それはT34が修理・整備を終え、その性能をドイツ軍に披露するシーン。
よもや白鳥の湖のBGMにのせて、戦車を走ら、走行や転回します。白鳥の湖のプリマドンナの如く戦車が踊るのです。
戦闘シーンでもないのに、本当に作り手の戦車愛が伝わる、名シーンになっています。
その戦車の踊りを観て、敵役のイェーガーが
「演習場に地雷を仕掛けろ」
と指示を出すところが、戦車の走行だけで凄さを知らしめたのが分かるニクい演出だと思いました。
淡白なドラマパート
ここまで読んできて、本作が戦車愛にあふれる作品だな、というのは理解いただけたのではないでしょうか?
でも、純度100%果汁のジュースのように、戦車要素に絞っている分、ドラマは希薄だとも言えます。実際にそういうレビューもよく見かけます。
ドラマが希薄というよりかは、淡白なドラマになっているといった方が良いかもしれません。
ドラマ自体は、分かりやすい敵役がいて、分かりやすいヒロインがいて、敵と戦いながらヒロインも救出するか、というところも分かりやすく描かれています。
戦争アクションが豊富で新鮮な分、ドラマとアクションの落差がより激しく感じられるのかもしれません。予定調和な段取り感は否めない感じでした。
また、アクションも戦争映画特有の血生臭さが、本作では、おそらく意図的に排除されています。
このあたりは、逆に戦争映画としてハードな表現を期待している人たちにとっては、少し物足りない部分だったかもしれません。実際、戦車映画というと近年の傑作「フューリー」と比較すると、フューリーは泥試合、本作はパズル戦と明確に違いがあるように感じるので、
何を期待するかで、満足度は変わってくるかもしれません。
たまたま期待せずに観たら思いの外面白かったという類の映画なのかもしれません。
でも、ジャンルが纏っている雰囲気にとらわれない空気感の作品やジャンルレスな作品というのは今後増えるような気がしていますので、その流れの一作として見てみると発見があり、面白い作品になっていると思います。