先日、コロナで随分足が遠のいていましたが、実に半年以上ぶりに映画館に足を運びました。
久しぶりの映画館で観る映画として選んだのは「インセプション」です。
クリストファー・ノーラン監督の2010年の作品で、最新作「テネット」の公開を控えてか、
映画館で上映されていたので観てきました。
せっかくの映画館での映画だったので、過去作を観るというのは少し残念な思いもありました。
新作があまり公開されていないこともあるので仕方ありません。
ですが、残念な思いを振り切ってでも、観たいと思うほど、私にとって好きな映画でした。
夢がテーマの複雑な作品
なぜかと言えば、ノーランの描いた夢の表現があまりにも新鮮で印象的だったからです。
インセプションは、夢がテーマの作品です。
映画の大半が夢のシーンになっています。
ターゲットの夢の中に入り込んで、アイデアを奪ったり、アイデアを植えつけたりする企業スパイが主人公です。
「アイデアを植え付ける」というのが、作品の中で「インセプション」と呼ばれています。
インセプションは、より深層心理に近いところで、やらなければ効果がありません。
そこで、夢の中でターゲットを眠らせて、さらに夢の中に入ります。そして入り込んだ世界で、さらに夢の中に入り込みます。夢の中でさらに夢に入り込むことで深層心理に近づこうとするのです。
ロシアのマトリョーシカみたいに、夢の中の夢の中の夢、といった具合に複数の夢の中が混在するストーリー展開になっていきます。
この映画、さらにここでもう一つ複雑な要素を入れてきます。
「夢の中の時間は現実よりも長く感じる」というものです。
つまり、現実の世界で10分寝ていたら、夢の中では1時間、夢からさらに夢に入ると1日。
といった具合に、ドラゴンボールの「精神と時の部屋」のように、現実世界の時間の流れ方と夢の中の時間の流れ方が違うものになっています。
とにかく本作は難しい設定が特徴ではあります。
映画内でも、ルール設定に割く時間は長いです。
チュートリアルみたいなシーンが続きます。
複雑な設定ゆえに、非常に飲み込みづらい部分があるのも確かです。
この飲み込みづらさが、夢の多重構造と、夢との現実の時間のズレが、本作の「メインディッシュ」になっていると思っています。
この設定だけで、ご飯何杯でもいけるんじゃないかと思うくらいです。
ここが楽しめないと、映画全体が楽しめないんじゃないかと思います。
それくらい、夢のシーンの映像表現は斬新です。
斬新な夢の中の表現
夢の表現と言っても、はっきりそれとみて夢とわかる夢ではなくて、わりと現実にあり得そうな夢になっています。
夢と現実がわからなくなる、という夢に入り込んだ時の副作用が描かれるからでしょう。
でも、潜在意識に気づかれた時のホラーのようなドキッとする表現だったり、突然建築物がバキバキと組み上がる表現だったり、これまでにない夢表現になっています。
そして、なんと言っても、夢の中の夢。
本作でいうところのホテルのシーンは印象的でした。
夢は上の階層の出来事に影響を受けます。
そのホテルのシーンでは、その影響で無重力になるのですが、これがなんとも奇妙で面白い。
ホテルで無重力の戦闘中にカットバックで現実の様子が描かれるのですが、そこでは眠っているだけなのがシュールなんです。あくまで「夢の中で戦っている」という設定です。
夢の中でも、無重力の中、眠っているキャラを束ねて起こそうとするシーンもシュールでしたね。
本作は、大真面目にシュールなことをしているのが興味深いです。
ノーラン監督作品はいつもそうです。
もう一つは、夢と現実時間のズレ。
本作では、映画が夢の三段構造になっています。三つの夢の場面が登場します。
夢のシーンが交互に映し出されていきます。
シーンごとに時間の流れ方が違うのが面白い。
一番上の夢では一瞬の出来事が、一番下の夢ではちょっと時間ができる。その時間の差を使ったギリギリの駆け引きみたいなものがスリルを生んでいて、ハンスジマーさんのジワリジワリくる音楽も相まって、テンションが上がっていきます。
映像センスと壮大なスケールの映画を観られて、やっぱり映画館に来て良かったなって思うわけです。
映画自体にインセプションされている?
ところがです。
冷静に考えるとおかしなところも多いのが本作です。
例えば、さっきの夢の中の夢の表現。なぜホテルは無重力なのに、一番下の階層は無重力でないのだろうとか。
いや、そのあたりは、まだマシだと思います。
夢をテーマにしている以上、どうしても細かい矛盾点は生じてしまうと思います。
でも、一番気になったのは、やっぱり主人公コブの言動でしょう。
コブは、チームメンバーにリスク犯させすぎでしょう。
特にモルの幻影のせいで、足をひっぱる恐れがあるのは、本人も当然わかるはずなのに、作戦を強行してしまうのはいかがかと思います。
モルとコブとのエピソードは確かにそれはそれで、夢の設定を生かした驚きの展開ではありました。
それを差し引いても。
というか、そんなことがあったのなら尚更、こんな仕事受けるべきではなかったと思います。
いや、仕事を引き受けるのは勝手ですが、それで他人を巻き込んではいけないでしょう。
度肝を抜く映像体験と複雑な夢設定で、すごい映画だと思う一方で、怒りの感情も湧いてくる不思議な映画になっています。
観ている間は、その映像世界にのめり込んで舌を巻くばかりでした。
思うに、観ている観客もインセプションされているのだと思います。
「これは何かすごい映画だぞ」と。
でも、映画見終わって現実世界に戻ってくると、「あれ? やっぱりあのシーンおかしくないか」と疑問が沸いてくるわけです。
個人的には、映像世界の凄みが伝わるというだけでも、ご飯が何杯でもいけるので、たとえインセプションされているとは言え、大満足です。
久しぶりの映画館で、一度観たことのある「インセプション」を選ぶ、という私の行動そのものが、実際多少のアラは目をつぶってでも、劇場に足を運んで観たいという気持ちの表れだと思っています。
最新作、テネットではどんな劇場でどんなインセプションがされるのか、今から楽しみです。