三児の父はスキマ時間でカルチャーライフ

仕事も趣味も育児も妥協しない。週末菜園家が、三児の子どもたちを育てながら、家事と仕事のスキマ時間を創って、映画や農業で心豊かな生活を送るブログ

映画「TENET(テネット)」が知的好奇心を刺激する理由

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アインシュタイン相対性理論はなぜ人の知的好奇心を刺激するのでしょうか?

 


本屋さんに向かえば、相対性理論の入門書がずらりと並んでいます。

大学で学ぶような高度な理論にも関わらず、相対性理論を理解しようと多くの人が入門書に手を伸ばすのです。

でも、相対性理論にはわかるようでわからない難しさんがあります。

本を読んだ時は理解できたつもりでも、しばらくと経つとやっぱり思いだせずに、今度はインターネットでもう一度「相対性理論」と検索します。

 


難しい理論にも関わらず、繰り返し繰り返し、理解しようと試みたい気持ちにさせる。

それが相対性理論の不思議です。

 


不思議な相対性理論が人を惹きつけてやまないのには、理由があります。

それは夢やロマンに溢れているからです。

ブラックホール、タイムトラベル。

SF映画の設定としてポピュラーなこの二つは、元を辿れば、アインシュタイン相対性理論に基づいています。

映画の題材になるようなワクワク感のある現象を導き出すのが、この理論です。

 

 

 

相対性理論は、時間と空間は相対的なものであるという理論。

Aさんが感じる空間と時間と、Bさんが感じる時間と空間は違うことがあり得るというものです。

つまり、時空の歪みです。

 


それは直感とは反する現象です。

本来日常生活をしていても、気がつくことができないでしょう。

時間というのは、Aさんに流れる時間も、Bさんに流れる時間も誰にでも平等というのが、我々の実感だからです。

その実感をくつがえすのが相対性理論で、その行き着く先にタイムトラベルなどの考え方が登場するのです。

 


日常生活では直感的に感じ取れないことを物理の計算で解き明かしてくれるロマンが相対性理論があります。

学ぼうとする人の知的欲求を満たしてくれるのです。

 

 

 

 


そんな相対性理論と同じように、我々の知的好奇心を大いに刺激してくれる映画があります。

それは先日公開されたクリストファー・ノーラン監督の新作「テネット」です。

 


映画テネットは、公開直後から

「わけがわからない。」

「難解すぎる。」

「何回も観てようやく理解できた。」

普通で言えば、ネガティブと言える感想が相次いでいます。

 


それにも関わらず、

「傑作」

「今年ベスト1」

「冷え込んだ映画業界を救う一作」

本作を絶賛する声も多いのが特徴です。

 

 

 

テネットは、アインシュタイン相対性理論と同様、

夢やロマン、現実の直感に反するような現象を説明する物理学ならではのワクワクやドキドキにあふれた設定や理論が描かれています。

 


そして、「現実の直感に反するような現象」を映像化した結果、今までになかった映画的体験が生まれています。

 


その映像表現が、観客の知的好奇心を刺激し、相対性理論を何度も学び直すかのように、

何回も映画館に足を運ばせるのです。

 


思い返してみれば、ノーランは、今までも現実世界ではあり得ない現象を映画という媒体を使って繰り返し表現してきました。

夢の世界や多次元宇宙。

それらは、時にバカっぽくもみえる設定です。

 


しかし、いずれも現実の物理学を基礎としています。

現実にあり得るかもしれない現象を、映像化することで説得力やロマンを持たせることに成功してきました。

 


まさに映画にしかできないことです。

 


今回それがより強化され、観客の知的好奇心を刺激し、読み解けば読み解くほどロマンに溢れるブラックホールのような映画が、テネットなのです。

 

 

 

より具体的に言えば、本作では、「時間の逆行」が描かれます。

何が斬新かと言えば、今までにも、「過去に戻る」というのは繰り返し、映画でも描かれてきました。

その場合、過去に戻る時間は一瞬で、ドラえもんのタイムトラベルのようにいきなり恐竜の住むジュラ紀に飛べることができる。そんな時間遡行の描かれ方が一般的です。

 


しかし、テネットの場合は違います。

時間の逆行はあくまで逆行。時間はさかのぼってはいるものの、そこで感じるの進み方は時間が前に進むのと同じ感じ方になります。

10秒かけて進んだ時間は、10秒かけて戻ります。

 


ここが今までにない、新しい映像表現になっています

荒唐無稽な設定のようですが、ちゃんと物理学の理論に基いてます。

時間の逆行は、エントロピーの減少で説明され得るということです。

 

 

 

直感に反することなので、ただでさえ理解が難しいにも関わらず、

劇中そのルールや理論がほとんど説明がされません。

チュートリアルシーンのあった、「インセプション」に比べると説明不足と言わざるを得ませんが、作品全体のテンポ感を優先したのでしょう。

そのおかげで主人公自身が感じる戸惑いをそのまま観客にも感じてもらう効果があるのかもしれません。

 


ルール説明が少ないだけではありません。

劇中に、この時間の逆行と順行が同時進行するシーンがあります。そのことが本作をより複雑にしています。

順行と逆行が入り乱れるシーンは、一回観ただけではほとんどわかりません。

でも、ノーランのすごいところは、映像自身の圧倒的な力で、理解はできないけれど、何かとんでもないことが起こっているという感覚を引き起こしてくれることです。

 


この直感に反する映像表現は映画でしか味わえないリッチな体験になっています。

映画館で足を運んで、目撃していただきたいと思います。

 


さて、ここまでテネットがいかに難解かを説明してきました。

難解なだけでは、おそらく観客はついてこないでしょう。

 


この物語に観客がついてきてくれるかどうかは、難解な物語を攻略する甲斐があるかどうかにあると思います。

本作のラストには、この映画の攻略の先に、大きな感動があることが示唆されます。

相対性理論を突き詰めればブラックホールやタイムワープがあるように、この映画を理解した時、時代を超えた壮大なスケールのロマンが待っていることを意味します。

真実の先に途方もない人間ドラマがある。

ある意味インターステラーでも描かれたノーラン節ともいえます。

 


だからこそ、本作を理解しようと何度も何度も、足を運びたくなるのです。

この難解さとロマンとエンターテイメント性のバランスの良さが本作を傑作と言わしめていると思います。

 


アインシュタインの示した相対性理論が現代にいきる我々の知的好奇心を刺激するように、ノーラン監督のテネットも世代を超えて語り継がれる名作となるのでしょう。

その歴史の瞬間をぜひ映画館で体験してみてください。