三児の父はスキマ時間でカルチャーライフ

仕事も趣味も育児も妥協しない。週末菜園家が、三児の子どもたちを育てながら、家事と仕事のスキマ時間を創って、映画や農業で心豊かな生活を送るブログ

キレイゴトぬきの農業論

 
キレイゴトぬきの農業論 (新潮新書)キレイゴトぬきの農業論 (新潮新書) (2013/09/14) 久松 達央 商品詳細を見る

本書は、有機農業に対する一般的な認識を誤解と断じ,シンプルな言葉でわかりやすく伝えているという点で,毎日野菜を食べるすべての人にとって必読の書であります。

そしてこの本は,世間への農業に関する啓もう書であると同時に,久松氏の農業に対する考え方や取り組み方,久松氏自身の魅力を感じとれる,そんな本でもあります。

 

 私は農業関係者でありますし,農学を勉強をしてきましたので 正直なところをいえば、ここで書かれている有機農業に対する認識というのは、私にとっては新しい発見ではありませんでした。しかしながら、農業者自らがこういった主張をすることに意味があると思っています。ましてや,著者は有機農業者です。

 

 私が仕事で関わった小学校における農業体験学習のときに,講師を務めてもらった農家が,「学校向けの野菜なのでなるべく農薬をやらない方がいいですよね。」とおっしゃているのを聞き,私は「農薬適正量を撒けば問題ありませんよ。」と回答しました。でもその農家の方はこう切り返しました「実際のところどうなん?体に悪いんやろ?」と。

兼業農家を中心とする昔ながらの農家は,多くの方はそういう認識かもしれません。ひどい場合には農協から言われた農薬をどんな名前かもわからずに使っているケースもあります。そのときに現場の農家と農学の乖離を感じました。

 

 もちろん,篤農家の方の多くは正しい認識で農薬を使用していると思います。しかし,それが世間には全くといっていいほど正しく理解されていないところでありますし,農業者自身ですら間違った認識の人もいるでしょうし,正しい認識を持っていても声高には主張できていないような状況もあったと思います。こういったこともあり農業者の側からこういった主張が出てきたことはとても好ましく思うのです。

 

 

 そして実はこの本は、オビの煽り以上に、久松氏の農業に対する考え方・取組み方に魅せられる本になっています。

 有機農業に関する間違った認識を一刀両断!科学的で合理的な農業を!といった主張から、著者の久松氏は、わりと一歩引いた目線から農業を捉えて,冷静な考えの持ち主なのかな、と本を読み進めながら思っていました。ただ、実際にはそうではなく、農業に対して感情で動くというか,あ,この人農業が好きなんだなというのが随所で伝わってきました。冷静にこれまでの農業のあり方を見つめなおす視点と,自分がこういう農業をやりたいという情熱の部分,それがすごくバランスが良く、その語り口とあいまって読んでて心地よいのです。農業やってて楽しそう感が文章から伝わってくるのです。

 有機農業の認識間違っている!だけでなくて,そのうえでじゃあなんで自分が有機農業を目指すのか。後半の久松氏の取組の部分の方が個人的には面白いものでした。

 

この本は、私がこのブログを書き始める動機のひとつでもある農業に対する正しい認識を世の中に伝えるという点で非常に参考になりましたし、自分自身農業というものに対して情熱というか哲学も必要だと感じさせる本になり、より精進の思いを強くしたのであります。