育児も仕事も趣味も妥協しない。
このブログのテーマです。
でも、育児も仕事も趣味も全部全うしようと思ったら、ストレスでまともに生きるのも大変です。
時に、非日常の世界に飛んでいきたくなります。
覚醒剤とか飲んだらどんな体験になるんだろうか?
昔みたテレビの再現映像では、急にテンションがハイになって、ショッピングモールのエスカレーターを逆走する様子が流れていたのを覚えています。
アルコール飲んでちょっと気が大きくなる。
そのテレビの再現映像からは、そのレベルの感想くらいしかもっていませんでした。
ドラッグってそんな生優しいものじゃないって教えてくれたのは、フランスのギャスパー・ノエ監督の映画「クライマックス」(2019)でした。
きっとこの映画を観たら、誰もドラッグなんてやりたがらないでしょう。
一方で、この映画を観ているとハイな気分になります。
そしてもう一度、観たくなる。
あのダンスシーンをもう一度私に見せてください。
そんな気分になるのです。
その感覚って多分、ドラッグそのものです。
映画そのものがある種のトリップ体験になっているのです。
まず持って本作は、映画の構成からして普通ではありません。
それはいきなりはじまります。
映画の冒頭、最初のシーンが終わると、なんとエンドロールが始まりました。
そうかと思うと物語中盤の、え?こんなところで?
というところで、タイトルがバーン! と登場します。
通常の映画の型にハマっていない時点で、それはもうある種のトリップ体験です。
トリップ体験なのは、構成だけでありません。
そもそもこの映画「クライマックス」の物語は、雪山の学校に集められた22人のダンサーがアメリカでの公演に向けて合宿が舞台。その打ち上げパーティーで何者かにLSDを盛られて堕ちていく話です。
主演のソフィア・ブテラさん以外は、本物のダンサーが集まっているということもあって、とにかくダンスシーンが圧巻なんです。
一番は、合宿シーンの冒頭に繰り出されるダンスシーンです。
このダンスシーンだけでおかず何杯もいけちゃうくらいに圧倒されます。
私は、あまりダンスには詳しくなくて、どんなジャンルなのか、はっきりいうことはできません。
コンテンポラリーダンスとか、そんな類のダンスなのでしょうか?
予告でもその一端は観ることができます。
驚くべきは、そのダンスシーンの一体感です。
それぞれのダンサーが個性を出しながら、思い思いのダンスを踊っているように見えながら、全体としては妙に統一感がある。だからすごく締まってみえます。
いうなれば、カオスの中の秩序です。
映画を見終わってから振り返れば、カオスの中の秩序はちょっとでも綻びができれば、途端にカオスへと急展開していくことを暗示しているようにも思えます。
実際に、このあと徐々に不穏な空気が増幅していきます。
それは、登場人物たちの間で交わされる何気ない会話の中で示されていきます。
突如、ゲラゲラと笑い出す登場人物たち。
暴力性や性的な意味合いを帯びた言葉たち。
いわゆる悪い予感しかしません。
その後、もう一本のダンスシーンが挟み込まれます。
最初のダンスシーンとは、ルックこそ似ているものの、完全に別物になっています。
「カオスの中の秩序」のカオスが、顔を見せ始めるのです。
ひとりひとりのダンスもどこか、暴力性や性的なイメージを帯びています。
「荒々しい」
という言葉が一番しっくりとくるかもしれません。
この映画をトリップ前、トリップ後に分けるとしたら、このダンスシーンが完全に分岐点になっています。
カオスか、秩序か。
その二つの中間のバランスのダンスシーンになっています。
本作は、型にはまらないと言いました。
実際他に類のない奇抜な演出がされていると思います。
描かれているのも、それからどんどんカオス的になっていきます。
でも一方で、ものすごく緻密な作りにもなっています。
会話シーンで話される意味合い。
ダンスの意味合い。
その要素ひとつひとつが映画の場面場面をつないでいます。
繰り返しになりますが、その意味では、一見カオスを描きながらも一定の秩序を保つ。
映画全体がそんな作りになっているとも言えます。
過去作もぶっ飛んだ作品が多いので有名な監督ですが、表現はぶっ飛んでいても、作りはすごく丁寧なんです。
でも、物語終盤はカオスそのものです。
まさにトリップ体験している気分になります。
秩序が乱れれば、正しいと過ちの境目はなくなります。また、重要なことと些細なことの区別がなくなります。
本作のカメラはそれをそのまま写しとります。正しいことも過ちも重要なことも些細なことも、すべて等価で表現されるのです。
それはカメラの長回し多用にも現れていると思います。
カットを割らないということは、その分、レンズに映されているものはすべて映るということを意味します。
例えそこに、
突然おしっこをし始める女性がいたとしても、
頭に火が燃え移った人がいたとしても、
パーティーの場でSEXが始まったとしても、です。
そんなことがさも当然のように映し取られていきます。
ドラッグをすれば、普通に考えたら、ダメだと思われてしまうような倫理的なこともすべて吹っ飛んで行動してしまう。その末路がこの映画では描かれていきます。
個人的には、小さな子供を持つ私としては、さすがにあまり子供を巻き込んで欲しくなかったですが。
基本的にはドラッグの凄惨さを描いた映画だと思っています。
でも、アンチドラッグ映画でありながら、ドラッギーなハイテンションの妙な魅力を持った作品でもあります。
この冬、どこにもGotoできないなら、脳内トリップしてみてはいかがでしょうか?