みなさんは、温室そだち、と聞くと、どんなことを想像しますか ?
小さな頃から、裕福な家庭で大切に育てられ、社会の厳しい環境を知らずに育ったような人。
たくましさに欠け、世間知らずで、内気でひょろっとした人。
多くの方が、そんな人物像を描くのではないでしょうか?
「あの人は温室育ちだから 。」
社会に出ると、こんな会話を耳にしますが、それくらい慣用句として定着しているとも言えます。 元々温室育ちという言葉自体は、野菜を育てる時の言葉のはずです。
野菜を育ててみた時に、温室で育てるとは、どういうことになるのでしょうか?
私の借りている菜園で育ててみました。
と言っても、私が借りているのはわずか3坪ほどの家庭菜園です。
プロの農家のような、ガラス温室ではありません。
1月、2月は一年の内で最も寒さが厳しい時期。普通に種を撒いても、寒さできちんと育ちません。
ただ、寒い間、畑を余らせることも、もったいないので、何か植えてみたいと思い、簡易なビニールトンネルをつくり、1月にホウレンソウの種を撒くことにしたのです。
ビニールトンネルは、アーチとビニールを使って組み上げます。
材料は、ホームセンターで購入しました。
家庭用の小さなビニールハウスも販売されていましたが、お金がかかります。
菜園の借賃は、月5,000円。
決して安くありません。
出来るだけお金はかけたくないので、材料だけ購入して、簡素なものを組み立てたのです。
そこでホウレンソウの種を撒きました。
今年は暖冬ということもあったかもしれませんが、すくすく育ちました。
冬場は、菜園には閑古鳥がないています。
冬は野菜が成長せず、畑作業が無いからです。 いつも、畑にきているおじさん、おばさんたちが冬の間はしばらく来ません。
一方、私は今回、ビニール栽培にチャレンジしているので、週に一回は様子だけでもみるようにしていました。
退屈しのぎに子供達も連れて行っているのですが、他の利用者がいないので伸び伸びとすることが出来たのです。
3月に入ると、急に暖かくなり、菜園に春が訪れます。
いつものおじさん、おばさんも畑に姿を現すようになり、野菜たちもグンと成長し始めます。
私が撒いたビニールホウレンソウもそうでした。
そして 3月の下旬。春分の日を迎えた時、いよいよ収穫を迎えることができました。
それがこちらです。
写真ではあまりよくわからないかもしれません。
一般に売られているホウレンソウと違って、軸が細く、葉っばも小さいのが分かりますでしょうか? 色も浅いです。
色が浅いのは、肥料が少なかったからかもしれません。
植物は肥料を土の中から吸い上げて成長します。ですが、肥料は水に溶けだして初めて効果を発揮します。
乳幼児の離乳食のように、水で溶かすひと手間が必要になるのです。
でも、水に溶けるのには気温が必要です。
冬の寒い間は、肥料が溶けづらく、ホウレンソウがあまり栄養分を吸収できません。
軸が細く、葉っばも小さく、ひょろっとした形。
もしかしたら、このひょろっとした状態が、もやしっこのような「温室そだち」と呼ばれるゆえんかもしれないと気づきました。
今回、冬場を暖かく過ごすために、ビニールをかけてあげました。
3月に入って、日中の気温が高くなっても、ビニールをかけていたので、暖かくなりすぎたのです。いわば、うちのホウレンソウは過保護な状態だったといえるかもしれません。
やはり、野菜を育てるのに、暖かくしすぎるのもよくなかったのです。
では、どうすればよかったのでしょうか?
調べると、プロの農家は、温室で育てる場合、日中気温が暖かくなると、換気して、涼しい風を当てるそうです。
そうやって、室内が暖かくなりすぎないようにします。
また、育苗といって、野菜のあかちゃんをハウスで育てることがあります。
そうやって育てた野菜の苗が、一人立ちできるまで大きくなったら、外の畑に植え付けします。
育苗から、畑に植え付ける前に、赤ちゃん苗を、わざと外に出すことがあります。
あえて寒い環境に置くことで苗がたくましくなるのです。 専門用語で順化と言ったりします。
そうやって順化させた苗は、軸が太くがっちりした苗になり、病気にも強くなります。
それに対して、外気に触れさせてなかった、うちのホウレンソウはひょろひょろになってしまったのです。
やっばり、野菜も外の厳しい環境に身を置くことが大事なんですね。 温室で育てるだけでは、たくましく育たないのです。
野菜も、人も、本当にその人(野菜)にとって必要なことがなんなのか?
ぬくぬくと育てるだけがすべてでない。
あえて厳しい環境におくこと、それもひとつの愛情です。
そんな愛情を持って、育てていくことが大事なのです。